ようこそ神秘の世界へ08
「ブレインイーター……か」
脳味噌を喰らうモノ。
喰らった人格を取り込んで、能力を獲得し、無尽蔵に強くなっていく怪物……といえば絶望的だけど、あまり大仰にも動けないらしい。
向こうの世界では普通だった。
けれどコッチの世界では魔術は秘匿されるモノ。
それは魔導災害……つまりモンスターも同じとのこと。
人を襲うにも、人気のない場所で、らしい。
そのために結界を張るのだとか。
「うーん」
しばし勉強。
今日は家で。
「むむぅ」
「ウーニャー」
疑似ロリと真性ロリがリビングでゲームをしている。
僕は三次関数の勉強。
BGMの代わりにはなる。
「意味不明なんだけどな」
フォトンは算数の教科書を読みながら、眉をひそめていた。
「円周率?」
「なんです? この無理数って」
「気にしたら負け」
そもそもツッコんでたらキリが無い。
その意味で、円周率の不条理さは、あらゆる学生の頭痛の種だ。
「結局ブレインイーターの方は……」
「カノンを信じるなら大丈夫なはずだけど」
真に迫るモノは在った。
結界も運営出来ているのだろう。
これで半永久的なら、ある意味で凄い。
「魔術……ですか……」
「ようこそ神秘の世界へ、だね」
「むぅ」
算数に悩んでいるのか。
魔術に悩んでいるのか。
「こんな物騒な巷だなんて」
「僕のせいじゃないけどごめんなさい」
「いえ、マサムネ様を責めているわけではありません」
深緑のテールをナデナデするフォトン。
「それにしても脳を喰らうとはまた剛毅な……と思いまして。そんな種族はあっちの世界でも知りませんでしたし」
「魔導災害って言ってたよね」
「ですね」
……災害ね。
では倒すとお金と経験値が得られるのでしょうか?
少しそう思う。
「で三点一四は覚えた?」
「小数点……ですよね」
「さいですさいです」
コクコク頷く。
「マサムネ様」
今度はジャンヌが声を掛けてきた。
「昼は何が食べたいですか?」
「もうそんな時間……」
「お腹空いたー」
ゲーム中のイナフも話題に乗っかった。
「ツナデの要望は?」
「お兄様に聞いてください……だそうで」
「じゃあ唐揚げ」
「からあげ」
「買い物は僕が行くよ」
「宜しいので?」
ジャンヌが困惑していた。
「何か?」
「化け物に狙われているのでしょう?」
「だからって引きこもるのも違うかなって。それにあまり心配もしてないし。根拠が絶対なわけでもないけど」
「例えば?」
「ジャンヌ」
「私ですか?」
「どうやらチャイルドは火に弱いらしいよ?」
「なるほど」
ファイヤースターター。
パイロキネシスト。
ジャンヌなら完璧だ。
「なるほどー」
感心したようなジャンヌでした。
「となると買い出しはマサムネ様とジャンヌで?」
「そう相成るかな」
「お兄様!」
ズバンと引き戸を開けて、ツナデが。
「昼は唐揚げ」
「相承りました!」
「で、買い出しは僕とジャンヌ」
「危険です」
「いや、あの程度なら幾らでも」
「そうは……申しますが……」
「炎使いが居るから安心だし」
「ツナデが安心ではありません」
「じゃあ頑張って」
「お兄様ぁ~」
抱きつこうとしたツナデの額に一本指を突き付けて、距離を取る。
「いいじゃん別に。ジャンヌは役に立つし。僕が好きだし。なにより美少女なんだからデートの一つもしたくなる」
「マサムネ様……」
はにかむジャンヌ。
可愛いね。
「さて、そうすると何を買ってくれば良いの?」
「鶏肉と唐揚げ粉を。あとキャベツ」
「アイアイサー」
そんなわけでそんなことになった。
別に危惧していないわけでも無いけど……それにしたって他人の都合で引きこもっても、それそれでシャクだしね。




