ようこそ神秘の世界へ07
「結界?」
「そぅ」
「張れるの?」
「まぁ」
そんな感じで、我が家の屋敷にカノンが結界を敷設することになった。
魔術関連を遮断する結界らしい。
あくまで壁越しであって、結界の区切りが重要視され、中と外では魔術を使えるも互いに干渉不可となり、純魔術的存在のブレインイーターならびにチャイルドを排斥する結界……とのこと。
何が何やら。
「その器用さに驚くんだけど」
「詩使いと呼ばれておりますのでぇ」
「うたつかい……」
「森羅万象を詩で詠むことで事象を発現する。ま、要するに長ったらしい呪文を唱えて、その長さに見合った事象を起こす……と思って貰えればぁ」
さいでっか。
僕は縁側で薬効煙を吸っていた。
ハーブの香りが肺を満たす。
「その石は?」
フーッと煙を吐きながら。
「人避けのルーン石ですぅ」
「ルーン」
「ま、基本何でも在りですからぁ」
そゆ問題?
「お兄様。何をされているので?」
風呂上がりのツナデが縁側で僕を見つけた。
「カノンの魔術行使の見学」
「はあ……」
ぼんやりと肯定。
縁側で月夜を見る。
「吸う?」
僕は薬効煙を差し出した。
「ではもらいます」
一本差し引いて、口にくわえ、それから僕のライターで火を点けてあげると、赤く薬効煙が点り、ハーブが煙となって精神を落ち着かせる。
「仕事の方はどう? 何か言ってくる?」
「そこそこに。まぁ給料が良いので、時間を食わない程度なら引き受けて良い案件も幾つかありますよ」
「例えば?」
「護衛とかストーカーとか」
「なる」
ほど。
薬効煙を吸う。
「お兄様の護衛の任務も多額の報償をいただけましたし」
「政府以外にも有用……か」
「ですね。特に秘匿性の高い議論では呼ばれることもあるでしょう」
「その辺の塩梅はよく分からないんだよね」
「お兄様は擦れていませんから」
たしかにそうなんだけど……。
「――――――――」
しばらく薬効煙を吸っていると、カノンが詩を詠いだした。
詩使い。
あるいは世界宣言か。
軽やかに望む現象を世界に祈る。
「…………」
しばらくその詩を聴く。
――魔を弾く楽園。
そんな言葉が聞こえてきた。
楽園……ね。
「お兄様はハーレムがお好きですか?」
「そうでもないかな」
「じゃあ誰か一人をお選びに?」
「ツナデじゃなくてもいいなら」
「駄目です」
知ってる。
「じゃあどうしよっか」
「異世界ヒロインズを叩き出す」
「出来るわけないでしょ」
「知っていますよ。お兄様は優しいですから」
義理とも言う。
月を見ながら煙を吸う。
「――故に私は喚起する。ホーリーサークル」
宣言。
「ふぅ」
カノンが安堵の吐息をついた。
「おや、お姉様ぁ」
「結界が張られたので?」
「はいぃ」
ニコリと……クシャッと……笑うカノン。
「これで魔なるモノは、この屋敷に入って来られませんぅ」
「器用なんですね」
「えへへぇ」
「ツナデたちは大丈夫なんですか?」
「人間には反応しませんからぁ。バッチリ大丈夫ですぅ。あくまで魔導災害用の結界地なので、そこら辺は案じて貰わなくてもぉ」
よろしいと。
「魔術って凄いんだね」
「えぇ、まぁ」
「ま、気にしすぎるのも神経すり減らすし、安全を確保できるならソレも良いんだけど、コレからどうすれば良いの?」
「私は学校が在りますのでぇ」
一日中護衛には付けない。
「僕も市立図書館で勉強したいんだけど」
「結構何者よぅ……って感じですよねぇ。マサムネはぁ」
「特に何でも無い一般人」
「死にたいならどうぞお好きにぃ。私はツナデお姉様を守れればソレで良いですからぁ……この際ライバルが減るのは好都合ぅ」
「多分その場合、カノンはツナデに嫌われるよ?」
「え~ぇ?」
「嫌いますね」
「ソレは困りますぅ」
「愛されてるね」
「ソレは困りますけどね」
似通った反応をするあたり、案外相性は悪くない気もするけど。




