ようこそ神秘の世界へ02
「それでグールは? この辺にいっぱいいるの?」
其処が肝要。
状況次第では警戒の度合いが跳ね上がる。
「その点に関してですけどぉ……」
「…………」
ヒロインたちからかわなかった。
「もしかして超戦力をお持ちでぇ?」
「ウーニャーとフィリアとジャンヌはね」
こっちでも魔術が使える。
魔術……と言って良いのか……。
「マサムネはぁ?」
「然程でもないかな」
「えぇ?」
何か不満でも?
「普通にチャイルドを無力化していませんでしたかぁ?」
「まぁあの程度は」
「魔術師でもないのにぃ?」
「……………………」
まじゅつし?
「魔術師って言った? 今……?」
「あ」
しまった、みたいな顔をするカノン。
「え? こっちにも魔術師っているの?」
「えとぉ……そのぉ……」
人差し指ツンツン。
つまり居るわけだ。
「まさかなぁ」
流石に予想外。
「ツナデは気付いてた?」
「寝耳に水です」
だよね。
そこら辺の摺り合わせから始めないといけないわけだけど……それにしてもゾンビやグールが跋扈しているなら、この地の支配者として、ツナデの耳には入ってそうだけど。
「一応魔術や魔導災害は神秘ですのでぇ」
特秘事項。
そう言っていたね。
「神秘」
「神の秘密と書いて神秘ですぅ」
つまり公に出来ないってことなのだろう。
「ソレこそ何で?」
イナフが尋ねた。
碧眼がキョトンとしている。
心底不思議らしい。
僕は薬効煙を吸って、フーッと煙を吐いた。
「体裁が悪いからですぅ」
「体裁」
そう来るか。
「ぶっちゃけ……あまり詳しいことは話したくはありませんねぇ。巻き込むのも本意ではありませんしぃ」
「それでいいのですか?」
とはジャンヌの言葉。
「ま、話したくないならいいんじゃない?」
僕はサラリと答える。
「つまりカノンはグールと戦ってるの?」
「正確には魔導災害とですけどぉ」
はあ。
「この辺り一体は私の管轄下にありましてぇ。ちょっと厄介な魔導災害が来訪したとぉ」
「厄介な魔導災害?」
「ブレインイーター」
ぶれいんいぃたぁ。
「脳を喰らう者。英語でブレインイーターですぅ」
「じゃあ、あのグールは……」
「ブレインイーターの被害者ですねぇ。脳を食われて、死んだことにすら気付かない浮浪者ですぅ」
そう相成るか。
「私たち魔術師はチャイルドと呼んでいますぅ。ブレインイーターの使い魔……そう呼べるかもしれませんねぇ」
「使い魔……」
「チャイルド……」
要するに従えている端末……か。
「で、マサムネは魔術師でもないのにどうやってチャイルドをぉ?」
「鋼糸」
「こうしぃ?」
ヒュン。
線が奔った。
ピンと固定。
鋼糸がカノンを絡め取った。
「これは……」
「ま、教養だね」
こっちが神秘を知らないように、カノンは忍を知らない。
その気になれば一区域程度は鏖殺できる。
鋼糸を外す。
手元に戻ってきた。
「暗器……ですかぁ?」
「そうなるね」
「お姉様の家はここら辺の名代だそうでぇ?」
「名家ではありますよ」
実際、正式な加当の純血は、今はもうツナデしかいない。
僕が言うのかって話だけど。
「第一管理者と聞いていますぅ」
「事実ですね」
「魔術的にはこちらの領分なんですけどぉ」
「ソレは初耳です」
「あまりお姉様に関わって欲しくありませんがぁ」
「この状況でソレを申しますか? こちらに魔術があり、怪物が居て、この地を踏んでいて。なのに関わるな、と?」
「魔術は神秘で在ることが第一条件なのでぇ」
「えと……」
よく分からない理屈ではある。
「お兄様?」
「僕を見られたって返せる物も無いよ?」
「そうですけど」
とりあえず秘密だって言うならソレで良いんじゃないかな?




