樹の国02
「ふおー」
フォトンは感心したように言葉をもらしてパチパチと僕に拍手した。
ちなみにそのフォトンの首にはナイフが突きつけられている。
「ぐ……」
「が……」
「痛えよぅ……」
僕によって害された山賊たちが苦しみ呻く。
対人戦闘の訓練代わりにと忍術も控えてクナイだけで戦ってみたけど、さすがに山賊じゃ相手にならない。
彼らにとって暴力とは弱きを害すためにあるもの。
強きに臨むための僕のものとは次元が違う。
ツナデでもいれば話は別だろうけど残念ながらここは異世界だ。
僕はイメージを強くもって想像創造をし、
「木を以て命ず。薬効煙」
と世界宣言した。
そして世界が僕の命令通りに変質する。
あるいは創造される。
僕の手には紙巻きタバコが生まれる。
正確にはタバコではない。
紙巻きタバコの形はとっているけど紙に巻かれているのは煙草じゃないのだ。
薬効煙。
加当の家に伝わる術の一つ。
薬術の範囲に属する代物だ。
ハーブや麻をブレンドした鎮静薬である。
肉体的依存症はゼロ。
ただし鎮静薬としての効果か精神的依存症は多少なりともある。
むこうの世界では当たり前のように吸っていたけど、さすがにこっちの世界にあるわけもない。
そう諦めていたところに魔術という技術があった。
イメージして世界に命令してイメージの通りに世界を創りかえる。
そして薬効煙をイメージすることはとてもたやすいことだった。
故に僕の手には薬効煙が生まれる。
そしてそれを口にくわえて、
「…………」
僕は想像創造をし、
「火を以て命ず。ファイヤー」
世界宣言をする。
薬効煙の先に火がつき、僕はスーッと煙を吸ってフーッと煙を吐く。
ああ、落ち着く。
閑話休題。
「で?」
僕は薬効煙を吸いながら山賊の最後の一人に問うた。
「どうするつもりよ?」
フーッと煙を吐く。
「うう……」
と恐怖の吐息をつく山賊。
その手に握ってあるナイフはフォトンの首筋に添えられている。
「…………」
僕は薬効煙を吸いながら最後の山賊に足を向ける。
「く、来るな!」
山賊はフォトンの首にナイフを光らせて僕を脅した。
が、
「やれやれ」
そんなものが脅しになるはずもなかった。
元よりフォトンは不老不病不死だ。
老いず、病まず、傷つかず、死なず。
そういう存在だ。
ナイフ如きなにほどもあろう?
そんなわけで僕は薬効煙を吸いながら山賊とフォトンに近付く。
フーッと煙を吐く。
ああ、落ち着く。
「来るなと言っている!」
脅しのつもりだろう山賊に、
「知ったことか」
僕は吐き捨てた。
「この少女が死んだらお前のせいだぞ……!」
「はぁ?」
何を言ってるんだコイツは。
「なんで僕の責任になるのさ。殺した君の責任だろう」
煙を吸いながら僕は言う。
そして歩みを止めない僕に対して、
「……っ!」
山賊はフォトンの首にナイフを切り込もうとして……失敗した。
まぁそりゃ無限復元がナイフごときで傷をつけられるわけもない。
当然の結果だ。
そして僕は煙を吐き出すと同時にフォトンに触れて、想像創造をし、
「闇を以て命ず。空間破却」
世界宣言をする。
世界が僕の命令通りに変質し、フォトンが空間を転移した。
そして山賊の腕から僕の後方五メートルの位置に瞬間移動するフォトン。
これで人質はなくなったようなものだ。
「……っ!」
狼狽して為すところを知らない山賊は、驚愕ゆえに何も出来なかった。
僕は両手で複雑な印を連続的に結ぶ。
そして術名。
「火遁の術」
次の瞬間、幻覚の炎が山賊の身を焼いた。
とはいっても幻覚だ。
正確には燃えてるわけではないけど、山賊の脳は自身の体が焼かれていると錯覚し、熱感覚に熱いという信号を送り体を苦しめ、同時に全身に水膨れを作る。
「が……あ……!」
全身を焼かれる幻覚に染められて最後の山賊はショックで気絶した。
南無。