095 トラブる
毎度毎度のお嬢様学校。
僕とウーニャーも慣れたモノ。
皆菱の護衛ということで、学内には認知されている。
で、どうこうと云う物でもないけども。
「殿方……マサムネ様……」
女子が一人。
僕に声を掛けてきます。
あーっと……なんだかなぁ。
嘆息。
「お昼休みに時間を貰えませんか?」
「構いませんよ」
「本当ですかっ?」
喜色満面。
「却下」
とはすげないツヅラの台詞。
「私の護衛はどうしますの? 蔑ろにしていい職務ではありませんことよ? その辺の理解はさすがに求めても良いでしょう?」
「ウーニャーに任せる」
「ぇぇ?」
そうも相成る。
「大丈夫にして心丈夫。見張ってはおくから。単純な力押しでなら、僕よりよほど優れてるよ……ウーニャーは」
「……………………」
半眼で幼女を見下ろすツヅラ。
「ウーニャー」
ウーニャーはピョコピョコ跳ねていた。
「可愛い!」
ヒシッと抱きしめる。
「ハーブの匂い~」
薬効煙ね。
「あの。ツヅラ様……ダメでしょうか?」
「そう言われると断りにくいわね。いいでしょう。けれどわたくしも同行しますわ」
「えと……」
「空気くらい読めるでしょ?」
「護衛の仕事が優先です」
たしかにね。
でもなぁ。
ちょっと今回は距離置いて欲しいんだけど。
「ウーニャー?」
「ウーニャーは可愛い」
「ウーニャー!」
ハグ。
「それじゃ昼休みに」
「はい。マサムネ様」
そして女生徒とは別れた。
「モテますわね」
「ん。まね」
あんまりツヅラには言われたくないけど。
「わたくしの場合は……背後の皆菱有りきですわ」
「ソレも含めてツヅラだと思うけどな」
「……………………」
「産まれる家は選べないんだから、カードとしての切り方を覚えるべきじゃない? 正直財閥令嬢に産まれておいて、自己否定は嫌悪の対象」
「マサムネには……分かりませんわ……」
「かもね」
サラリと僕。
「上から目線には謝るよ。君の気持ちを斟酌しないことは……たしかに悪いことかもしれないけど、誰かが代替物に出来るなら、偉人の誉れは要らないわけで」
だから、
「ツヅラも僕の気持ちを斟酌しなくていい」
「ではそうしますわ」
キッと睨まれる。
「では雇い主として傲慢を押し付けます。此度の呼びかけには応じないでくださいませ」
「だが断る」
定番だよね。
「わたくしよりも他の女子が良いと言いますの?」
「別に告白を受けると入ってないけど……」
「けれど護衛を蔑ろに」
「着いてくるんでしょ?」
「う……えぇ……」
「なら大丈夫じゃん」
「そう……です……けど……」
「何か問題が?」
「仮に悪意を持って近付いてきていたら……と仮定すれば?」
「ツヅラを襲うんじゃない?」
「そうですけど……」
歯痒い感じが中々抜けないね。
「何か懸念があるなら聞くよ?」
「危ない目にあって欲しくないですわ……」
「優しいね」
「そっ……そんなんじゃありませんわっ……! 単に……その……マサムネの護衛が目減りすれば回り回ってわたくしの都合にも支障が出ますし……」
「じゃあ無病息災でいよう」
「でしたら教室で受け答えを」
「それは乙女には酷だよ」
衆人環視の前ではことも起こせないだろう。
「惚れてはいませんわよね……?」
鋭い眼差しでござんした。
「さっき知ったばっかりだから、流石にね」
恋の花は咲きやすく、枯れやすい……にしては僕の抱える乙女たちは、中々スタミナのある恋愛観を持っているけども。
一種のラブアスリート。
「ウーニャーは僕のこと好き?」
「大好き」
「ありがと」
ポンポンと頭を優しく叩く。
「ウーニャー……」
トロンと蕩ける幼女の瞳。
甚だ危険な香り。
「ロリコン」
「既述の如し」
その程度では参らない僕でした。
ところで告白ね。
さてどうしたものやら……。




