093 ぞんざいな扱い
「あー、疲れた」
「ウーニャー」
僕とウーニャーはカーペットに倒れこんだ。
三十階建ての億ション最上階。
フワフワのカーペットは、我が家のものと比べてしまえば、敗北と苦渋に満ちてしまうほど、悪魔的だ。
さすが金持ち。
「行きでも思ったけど徹底しているね」
地下の駐車場で乗り降り。
メンインブラックが警戒して、エレベーターに乗り、最上階へ。
そこからはメイドさんたちが仕事をして、僕らは茶を飲める。
ここなら早々狙撃もされない。
まずツヅラを殺すのはうまくないしね。
「無無明」
ゴロゴロ~。
「ウーニャー」
ゴロゴロ~。
「本当にコイツらは……」
半眼のツヅラでした。
「春もうららな良い頃合い。如何にお過ごしでしょうか?」
「ウーニャー」
「今更ツッコむのも疲れますわね」
「信用していないって奴? まぁたしかにやる気は足りないけど」
「忍者なら忍術とか使えないんですの?」
「使えますぞ」
「敵をやっつけるんですよね?」
「護衛するだけなので。無力化程度はしますけど……」
「なんか派手にハリウッドアクションばりな活躍は?」
「阿修羅にお願いしてください」
三面六臂。
「つまらないですわね」
「人生万事天中殺」
くあ、と欠伸。
「本当に貴方って殿方は……」
「目の付け所が眉の下でしょ?」
「わたくしを誰だと思っていますの? 皆菱ツヅラですわよ?」
「知ってる」
資料は一通り読んだ。
「ふふ」
「?」
むしろ笑われた。
微笑……微笑みか。
「このわたくしをここまでぞんざいに扱う男性は初めてです」
「天は人の上に人を造らず」
「一周回って新鮮ですわね」
「光栄な栄光」
「マサムネはわたくしをどう思っていますの?」
「霊長類」
「本気なら殺しますわよ」
やれるものならやってみろ……でしょうか?
「僕としてはそんなに危険視できないかなぁ。君より酷いヒロインは結構見てきたし」
ていうか我が家の屋敷は多分一国と戦争できる。
「おモテになるのね」
「有り難いことに」
「……むぅ」
何ゆえそこで不機嫌に?
「マサムネは帰るべき場所を持っていますのね」
「それも有り難いことに」
「わたくしなら幾らでも甘やかしてあげますわよ?」
「そ」
「そこでぞんざいになりますの?」
「何と申せば?」
「皆菱で養ってあげると言っているのです。感涙すべきでは?」
「そんな義理も持ってないし」
「ウーニャーも?」
「ウーニャー! ウーニャーはパパが好き」
「ロリコン……」
「……………………」
…………ちょっと殺意湧いちゃった。
「要するに惚れたの?」
ウーニャーの適確な串刺し。
「違いますわ。惚れる権利を与えようとしているだけです。誰がこんな奴」
さいでっか。
「惚れて構いませんわよ? 魅力的でしょう?」
「ウチの妹の方がもっと可愛い」
アレはアレで難儀だけど。
「シスコン」
「兄馬鹿程度だね」
さほどのコンプレックスは持っていない。
おかげでヒロインの関係性がごっちゃになってるけども。
「しかし財閥令嬢も大変そうだね。もっと肩の力を抜いて生きれば?」
「そう出来るなら、しますけど」
「生まれの業は選べないしね」
勝ち組に産まれただけ幸福ではあろうけど。
「薄っぺらい仮面劇場ですわ。この世は」
「皆菱の御機嫌を取らないといけない立場だしね」
「貴方もですわよ」
「僕は例外」
「自分で仰います?」
「駄目かな?」
「本当に分かっているんですわよね? 貴方は光栄にもわたくし皆菱ツヅラの護衛を仕り、わたくしに恋する権利を与えられたもうた存在ですのよ?」
「うれしーなー」
「恋情がこもっていませんわ!」
「でも僕と恋仲になると他の乙女から刺されるよ?」
「皆菱と知って?」
「理解は出来ないだろうけどね」
「ウーニャー? 消す?」
護衛対象を消してどうするのさ?
ドラゴンブレスはガチでヤバい。
「じゃ、筋トレでもしますか」
「ウーニャー。ウーニャーも重しになる」
「いい子いい子」
「……………………」
なんか珍味を見つめる外国人のような目でツヅラに見られました。




