092 ツヅラの部活
「ツヅラ様」
「ツヅラお姉様」
花壇では、軍手をはめている乙女たちが、ツヅラを呼んだ。
「園芸部ね」
そう聞いている。
高尚な趣味だ。
少なくとも僕には向いていない。
温室もあり、本格的だ。
さすがのお嬢様学校。
「そちらの殿方は?」
まぁ女しかいないんだから、僕はイレギュラーだろう。
「護衛ですわ」
別に誤魔化すつもりも無いらしい。
皆菱財閥の令嬢でもあれば、それくらいはやってのける……そんな空気が乙女たちの間で穏やかに流れていた。
「大丈夫なんですの?」
「優秀な護衛なので心配いりませんよ。それより部活をしましょう」
部長はいるらしいけど、どうにもツヅラは存在感が大きいようだ。
御本人不満げ。
チヤホヤされても嬉しそうでないあたりは、たしかに冷め切っている一段上の視線を感じ取れる。
問題はソレを僕くらいしか覚れていないこと。
「マサムネも参加しますか?」
「遠慮しておこう」
「仕事第一義ですの?」
「サボり第一義ですの」
「……………………」
「冗談だよ」
実は本音だけど。
「殿方はマサムネ様と仰るので?」
「ですね~」
ヒラヒラ手を振る。
「ツヅラ様の御身を守るにしては、少し不安ですわ」
「大丈夫。僕もそう思ってる」
「マサムネ!」
ツヅラの激が飛んでくる。
「給料分の仕事はしますよ」
他に述べようもなく。
「もしもわたくしに傷の一つでも付けたなら、関わる者悉くを滅ぼしますわよ? その辺の覚悟は那辺に?」
「滅ぼし返すだけだし」
別に難しい事でも無い。
「貴方という人は本当に……っ!」
「部活しろ」
コーヒー牛乳を飲みながら、花壇の縁に腰掛ける。
ウーニャーも倣った。
虹色の髪。
今更ツッコまれるわけでも無い。
説明しようにもなんだかな。
「花はお好きですの?」
「見ている分には。管理するとなるとちょっと面倒」
「此方で育てている花は華道部で活けて貰っているんですわよ」
「手頃に季節の花を仕入れられるのかぁ。商売したら?」
「そこは慈善事業でしょう?」
さいでっか。
それにしても、狙撃ね。
警告と言っていたか。
となれば、帰りのソレか。
「お嬢様も大変だ」
「ウーニャー!」
パタパタと足を振る可愛いウーニャー。
抱きしめたい。
「しかしお嬢様でも手は汚すんだね」
「何も穢れずにモノは掴めませんわ」
「なる、襟を正して聞くべき名言だ」
「今のところは安全なのですよね?」
「一刻一秒の精密な警戒はしておりませなんだ」
「それが仕事でしょう?」
「だから傍に居るでしょ」
「ぐ……」
何故詰まる?
少し不思議な反応。
「さすがに学校で事に及ぶと全国ニュースだしね」
ましてお嬢様学校とでもなれば。
信用問題だ。
「君だってビクビク怯えながら暮らすのは嫌でしょ?」
「そうですわね」
「じゃあその意向に沿って、護衛をするだけだ」
「頼りになりますの?」
「護衛を変えたいならどうぞご勝手に」
別に命を賭して守りたい人間でもない。
片手間に出来るものなので、油断が大敵ではあれど。
「殿方は淡泊ですのね」
「それを世界はものぐさという」
さすがに薬効煙を吸うのはまずいか。
懐に入れてるんだけど。
ライターごと。
「虫とかとも戦うの?」
「温室に入る前に、徹底的に」
「花……ね」
春は梅か桜しか知らないんだけど。
「ウーニャー。お花いっぱい」
「だね~」
コーヒー牛乳をチューと。
「南無八幡大菩薩」
「では部長。此方の花は華道部に……」
「ええ。お願いしますわ」
そんな感じで部活動は進む。
「乙女……ね……」
異世界ヒロインズは大丈夫だろうか?
心配はしていないけど、心砕き程度は。
『御飯食べてる?』
『ばっちり!』
ラインでそんなコメントのやり取り。
そっか……ばっちりか……。




