090 お嬢様学校
「行きますわよ」
言われて僕は従う。
皆菱ツヅラ。
その護衛だ。
高名なお嬢様学校に通っているツヅラは、その登下校を、ロールスロイスで送迎されていた。
「無駄に金持ってるね」
「貴人の嗜みですわ」
サラリと述べる。
嫌味がないのも恐ろしい。
学校に着けばチヤホヤチヤホヤ。
「ツヅラお姉様!」
「ツヅラ様!」
「お姉様!」
「先輩!」
どうやらマスコットらしい。
「お姉様。そちらの男性は?」
とは僕のこと。
「護衛ですわ」
サラリと述べ能う。
いや……まぁ……そうなんだけど、確かに事情を説明するのも野暮ではあるし、たしかに此処で何がどうのでもない。
「護衛ですの?」
「ちょっとした警戒ですわ」
やはりサラリとツヅラ。
お嬢様学校に男が一人紛れ込んでいたら感心も買う。
一応学校には届け出て、受理もされていますけども。
「男がこの学園に……」
周りの女子は目をぎらつかせてた。
「言っておきますが譲りませんわよ?」
言わなくて良い。
「ウーニャー?」
ウーニャーは人型で、僕に接していた。
こっちもこっちで注目を集めている。
虹色の髪だ。
ウィッグも考えたけど、
「……今更か」
の答案に辿り着く。
そんなわけで僕とウーニャーはツヅラの護衛としてお嬢様学校に受け入れて貰えた。
「殿方が」
「結構イケてますわよね」
「ツヅラ様も面食いですのね」
不条理な言葉を聞いた気がした。
あえてツッコまなかったけど。
それにしてもお嬢様学校だけあって乙女勢揃いだ。
こっちとしては孤立無援。
まだフォトンたちと一緒に居る方が、気が紛れる。
オーラを一瞬展開する。
毒物。
火器。
「関連無し……と」
「ウーニャー? パパ、オーラを?」
「どこに何があるか分からないし」
護衛の最低限は務めるつもりだ。
他にやることも無いしね。
「ウーニャー……」
虹色の髪をクシャクシャと撫でる。
「――――――――」
しばらく授業が続いた。
教室の後方に突っ立っている男子。
意識が向けられるのは避けられない。
「とはいえ」
新手の拷問か。
そこは観測に能う。
純粋培養のお嬢様学校に於いて、こっちの……異性としての存在が如何に大きいモノかを証明する事案ではあったけど、この際そんなことはどうでも良くて、ただ単に居心地の悪さだけを僕は味わっていた。
「ウーニャー?」
ウーニャーの方はそうでもないらしい。
そして昼休み。
「マサムネ」
ツヅラがこっちに声を掛けた。
「へぇへ。何でございましょ?」
「食堂に行きますわ。護衛として付いてきなさい」
「そうしよう」
そして僕はツヅラの付属品として後をつける。
ウーニャーも一緒に。
「毒殺は有り得ると思います?」
「心配はいらないかと」
既にその辺は調査した。
「どうやって?」
「企業秘密」
これもまた変わらず。
「ぶっちゃけツヅラを狙ってるのは、どこぞの組織でしょ」
「ですわね」
「根を叩けば良いのでは?」
「ソレが分かれば苦労はしませんわ」
ご尤もで。
南無三。
「じゃあ結局対処療法か。別に嫌だってワケでもないけど、仕事にしてはちょっとフワフワしてるよね。今回の一件は」
「守る価値無しと?」
「守ってみせるよ。何者からも」
「信じても?」
「よろしい」
「何様で?」
「僕様で」
「では期待します」
「ん。よろしい」
僕はしかと頷いた。
別に皆菱の血縁が途切れようとも、
「だから何?」
で済む話だけど……ちょっと皆菱ツヅラには興味が湧いて、それ故か……別に誇れることでも無いけど、少しは護衛しても良い気になる。
絆されたわけじゃ無いよ?




