089 皆菱ツヅラ
で、その日のうちにツヅラ氏の億ションへ。
「うーん。良いところに住んでおりますな」
三十階建てのマンションの最上階。
地震が起きたら死ぬね。
「ウーニャー?」
ウーニャーは高層建築が珍しいらしい。
まぁ三十階建ては中々見られない。
カードキーでエントランスを抜ける。
エレベーターで最上階へ。
インターフォン。
『はい?』
「今日からツヅラ様の護衛となりましたマサムネと申します」
『…………』
沈黙が漂った。
ガチャリと扉が開かれる。
黒髪黒眼の大和撫子。
皆菱ツヅラだ。
「貴方がマサムネ?」
「さいですな」
一応こっちのデータは閲覧してるはずだが……たしかにこんな若手が財閥令嬢の護衛もおかしな話だ。
「役に立つんでしょうね?」
「立たなかったら不幸ですね」
別に命を賭して守るほどの対象でもない。
「ソレでやっていけるんですの?」
「相応の努力はしますよ」
別段コッチもミッションインポッシブルを前提にはしていない……ていうかソレが前提ならそもそも話も振られていない。
「いいのですけど」
不遜な声で彼女は言った。
「では失礼しても?」
「許可しますわ」
「ウーニャー!」
「こっちは?」
「名はウーニャー。護衛の一人」
「役に立つんですの?」
「まったく立たない」
これも事実。
「じゃあなんで居るんですの?」
「世界平和のため」
「巫山戯て?」
「本気だけど」
実際リードを握っていないと、こっちの方が不安だ。
「まぁ護衛してくれるならいいんですけど」
「微力を尽くします」
そして部屋に入る。
「で、誰に狙われているんだ?」
「知りませんわ」
「会長と同じ事を言うのな」
「敵なんてそこいら中にいますもの」
金持ちは金持ちで……相応の苦労を荷負うモノらしい。
「狙撃による警告はどう思っているので?」
「恐怖ですわ」
「さいでっか」
「防げるんでしょうね?」
「それはスナイパーに聞いた方が効率的でしょう」
彼女……ツヅラは眉を寄せた。
「何か?」
「よくまぁズケズケと申しますわね」
「不興を買って?」
「いえ、むしろ心地よいですわ。こちらにヘコヘコしない人材というのも物珍しいですし。それだけの何かが貴方にあるのでしょう」
「さほど大層なモノはありませんが」
謙虚ではなくそう思う。
「使用人は居ないので?」
「隣の部屋に陣取ってますわよ。幾ら何でもプライベートスペースには入れませんわ」
「僕は入ってるんだけど」
「最悪を備えて……ですわね」
「別に殺されても問題なしか」
「ありますわよ」
「そっちの都合では……でしょう?」
「ウーニャー!」
「…………そうですわね」
半眼で睨まれ申した。
一瞬だけオーラを展開する。
「盗聴器は無し……か」
「何で断言できますの?」
「企業秘密」
殊更説明することでもない。
「ウーニャー!」
ウーニャーは元気そうだ。
「身を委ねて良いのですよね?」
「護衛として相応の努力はしますよ」
「それが不安を呼びますわ」
「駄目だったら……まぁ化けて出てください」
「そうしますわね」
真っ先に呪い殺す。
ツヅラはそう言った。
「お爺様にも迷惑掛けていますわ」
「向こうも孫娘に心を砕いていますよ」
「ですか」
嘆息。
「とりあえず」
とは僕。
「さすがに三十階の部屋を狙撃は出来ないでしょう」
「そのために此処に居ますわ」
「じゃ、ここではどうにでもと」
「そう相成りますわね」
「問題は学園でしょうか」
お嬢様学校。
ツヅラはそこの生徒でした。




