088 会長の苦悩
そんなわけで、こんなわけ。
僕とウーニャーは財閥令嬢の護衛に付くことになった。
資料は目を通した。
中々の美人さんだ。
黒髪黒眼の大和撫子。
ただ……兄馬鹿かもしれないけど、ツナデの方が可愛い。
異世界ヒロインズの監督はツナデに任せ、一応、僕は選挙までの間、対象の護衛に付くことに相成る。
ウーニャーも一緒にね。
そのウーニャーは白いワンピースと麦わら帽子。
虹色の髪を太陽光で変遷させていた。
髪の色さえ気にしなければ、愛らしい幼女ですむ。
「で、ここね」
ビルを訪ねることになった。
皆菱の傘下企業の本社。
「会長とご面会ね」
気疲れはする。
仕事を放り出す真似はさすがにしない……というかやりたくても出来ないけど、それにしてもお偉方の品格とプレッシャーは、何時の時代も同じようだ。
僕はそれなりに慣れたもの。
とりあえず受付で。
「皆菱会長にご面会を」
失礼ですが、から始まる身元確認。
内線で繋いで予定も確認。
「どうぞ」
と言われて、エレベーターに乗る。
「ウーニャー。電話?」
「内線? まぁ電話だね」
「あの人たちスマホ持ってないの?」
「持ってるが形式上だ。効率の問題じゃない」
そもそもウーニャーは例外的にスマホを持っていない。
しばらく箱の中。
そして会長室へ。
「マサムネ氏……か?」
「ですね」
ヒラヒラと手を振る。
「ウーニャー!」
ウーニャーもヒラヒラ。
皆菱会長はどうやら気疲れしているらしい。
年齢にしては若作りだが、苦悩が眉間に刻まれている。
「虹色の髪の少女……連れ添いと聞いたが?」
「まぁある意味で無害なので気に為されなくても」
「忍……と聞いたが?」
「ですね」
これは面接か?
既に話は通っているモノとばかり。
「孫娘を……任せて宜しいか?」
「時間は限定されますけども……微力を尽くします」
「そうか」
納得したのか。
してないのか。
それはこっちからはあまり分からなかったけども……孫娘……皆菱ツヅラを大事に思っているのは見て取れた。
「今までの干渉は?」
「最初は脅迫文だった」
それは資料通りだ。
「次に暴漢に襲われた」
それも資料通りだ。
「狙撃されたこともある」
「死んだので?」
我ながら言葉を選ばなかったけど、ぶっちゃけ機嫌を損ねて破談になってもコッチに損益はあまりない。
「いや。警告だったらしい」
「ああ、なるほど」
要するにスポンサーを止めろ、と。
「どう見る?」
会長はこちらに水を向けた。
「高度に政治的ですね。多分外国の勢力でしょうけど……そこは問題じゃないでしょう」
「であれば?」
「暴漢に見立てた加害者が襲う。極道も絡んでいるのでは? 外国の勢力がスポンサーに付くなら、ある程度の三下は使い潰すでしょうよ」
「ふむ」
その辺を会長が見抜けないはずも無いのだけど。
「君は孫娘を守れるかい?」
「無理と言えば解放してくれるので?」
我ながら大それた事を言っている。
けれど本心でもあった。
「ウーニャー!」
ウーニャーは人型のまま、僕に抱きついて頬ずりしている。
「君を疑うわけでは無いが、出来れば御庭番が信頼できる」
「でしょうね」
殊更あげつらうことでも無い。
実際にその通りなのだから。
「じゃ、契約しないと言うことで。御庭番のスケジュール調整はそちらに任せます」
「待ってくれ」
「まだ話し合うことが?」
「君を認めないとは言っていない」
「言ったでしょう?」
「相対的な問題だ」
「で、落選したなら此処に居る都合もありませんや」
「待てと言っている」
「まだ何か?」
「君には孫娘を守って欲しい」
「信用できないのに宜しいので?」
揚げ足を取る。
「他に選択肢もない」
「孫は他にもいるでしょうよ」
「純潔を尊ぶ」
さいでっか。
「ウーニャー?」
ウーニャーは会話についてこなかった。
理解しているはずだ。
単に優先事項で無いだけで。




