084 カノンとお風呂
「うー」
カノンは不満そうだ。
何がって僕とツナデの密着が。
毎度毎度のお風呂ですけど、
「お姉様と一緒に入りたいですぅ」
と言う要望で、カノンはツナデとの混浴を申し出て……言わずもがな拒否するだろう……そんな僕の思惑は裏切られ、カノンはツナデと混浴した。
僕を含めて。
――何故よ?
いや分かってはいる。
僕とツナデの仲を見せつけたいのだろう。
ある意味で物事を諭すより、実際に見せた方が経験値としては確かに有用ではあるけども……ソレにしたって趣味の悪い。
「お兄様……っ!」
唇が重ねられる。
ツナデの舌が僕の口内を蹂躙する。
水着姿の僕とツナデ。
ついでにカノン。
クチュ……。
クチャ……。
唾液の音が淫靡に響いた。
ツナデの手が自分の胸に向かう。
僕とフレンチキスをしながら、パイオツを揉みしだく。
「お姉様ぁ……」
ツナデが誰のものか?
それを決定づけるショッキング映像だったろう。
「不潔ですぅ」
「ええ。淫靡とはだいたいインモラルです」
僕の唾液を舐め取って、ツナデは残酷にも告白した。
ていうかスーパーでの思案は……この時点……つまり風呂に入ることを前提に、カノンを巻き込んでの戦略的アピールだったわけだ。
さすがにないです。
そこまで悪魔的発想は。
「マサムネは受け止めるのぉ?」
「責任取れないので今は無理」
「ツナデの乳房を揉んで良いんですよ」
「へぇへ」
「身体も弄って良いんですよ?」
「要熟考だね」
殊更道徳に喧嘩を売ろうとは思わない。
「カノンとしてはどう思うの?」
「殺して奪いたいですぅ」
「はっはっは」
笑えない。
いや本当に。
「ま、そんなわけでツナデは僕にベタ惚れだから。諦めて新しい恋を探せば? 同性愛は否定しないし、カノンの趣味嗜好も口を挟むべきではないけど、ちょっと相手方に難がありすぎるよ……」
これは誓って本当。
それほどツナデは――意味不明にしても――僕が好きだ。
「うぅ……」
悔しそうな顔。
苦悶の声。
その全てが乙女だった。
――ああ、本当にツナデを好きでいてくれている。
ソレがとても嬉しい。
「お姉様は復学しないのでぇ?」
「学校は辞めましたし」
僕共々ね。
「大学は行かないんですかぁ?」
「仕事がありますし」
「マサムネに任せてはぁ?」
「もちろん適いますよ」
それも事実。
「じゃぁ――」
「――単純に責任問題の話ですし」
そうなるよね。
実際。
「マサムネが邪魔してるとぉ?」
「いえいえ。お兄様に楽な暮らしをして頂きたいので」
「何時でも頼って良いんだよ?」
「だからこうやって甘えています」
ギュッと抱きしめられた。
胸板に、パイオツが押し付けられる。
至福。
「童貞ぃ?」
「幸いにも」
うんうんと頷く。
「むー。納得出来なぃ……」
「でしょうよ」
そこは違えていない。
むしろ同情の領域だ。
ツナデは僕を好きすぎるから、その他の事項について興味が希薄というか……むしろ興味無しで完結する逸材だ。
いわんや乙女の一人が好きでいても、その気持ちごと、その恋心ごと、踏み散らして臼でひくレベル。
「お姉様はマサムネの何が好きなんですかぁ?」
「全てです」
よく言われる。
「顔も。瞳も。性的にも。心情としても。境遇も。人格も。優しさも。素っ気なさも。全てが乙女心を刺激します」
「それほどぉ……」
「ま、冗談の類だから」
「冗談じゃありませんよ~」
ぷっくり膨れるツナデ。
「知ってるけど道化性は自覚すべきだね」
「してますよ?」
ソレも知ってる。
「でも愛を囁く以上のアピールをツナデは知らないので」
それもあるよね。
水着の誘惑でも、僕の股間は反応しない。
であれば人間なのだから、言葉は有用だろう。
人に言えた話でも無いにしても。
ピチョン。
天井の水滴が落ちて、湯面に跳ねた。




