083 決闘?
「此処で良い?」
僕はカノンに問うた。
春の夜は早い。
既に日も暮れ、照明が稽古部屋を照らしていた。
一応近接戦闘を学ぶために、屋敷にはこんな施設もある。
「構いませんぅ」
グッ、と拳を握るカノン。
「結局カノンは強いんですか?」
「さてどうでしょう?」
フォトンとツナデの会話。
「お兄ちゃんに勝てたらある意味大金星だよね」
「ウーニャー」
似非ロリっ子コンビはそんな雑談。
「単に身体能力だけなら、マサムネちゃんは随一よね」
「ですね。私やフィリア様でもどうなるか」
破格コンビも、心配はしていないようだ。
「あう……危ないことは……しないで欲しい……」
リリアは危惧していた。
優しいなぁ。
加点対象。
リリアの優しさが身に染みる。
「さて、じゃあ始める?」
僕は胴着に着替えていた。
カノンも。
栗色の髪をリボンで結んで邪魔にならないように。
「じゃあ始めましょぅ」
グッと膂力が足に溜まる。
――来る!
思ったときには反応していた。
天井に足を付ける。
一瞬で間合いを詰めて、崩拳を放ったカノンは、僕を見失っていた。
けれど困惑はこっちの方だ。
どう見てもカノンは身体を鍛えていない。
これは見ただけでわかる。
なのにその数値足るや、ある種……ツナデやイナフ……熟練の近接戦闘特化ヒロインに傾いていると言って言い過ぎで無い。
天井を蹴る。
リミッターを少し外した。
回し踵落とし。
ミシィ!
片腕で受けられた。
「うわお」
本気で戦慄に値する。
逆の足で、カノンの腕を蹴って、間合いを取る。
「何者ぉ?」
こっちの台詞だ。
「なんで反応できるのでぇ?」
「鍛えてますから」
他に述べようも無い。
「そんなレベルかなぁ?」
思案気。
何を疑っているのか。
今の僕には分からない。
ていうか……そんなレベルも何も、こっちとしてはむしろ彼女……カノンの方にこそ問いたい一言ですらあった。
「では続きでも」
「いいけどさ」
パン。
空気が爆ぜる。
拳が襲った。
受ける。
「――――――――?」
意外と膂力が練られている。
どこからその力が湧いて出るのかを問おうにも……それ以上の速さでカノンの手刀と足刀が襲い来る。
「よ。ほ。は」
その全てを受け流した。
「マジでぇ?」
だからコッチの台詞。
膂力はある。
速度もある。
なのに理が無い。
ある意味で暴威的な凶器を振りかざす子どもと大して違わない。
その根幹となる暴威的な狂気……拳や蹴りが、ある種、殺人のレベルまで引き上げられている不鮮明さこそ、この場で取り上げる議題だろう。
何が其処までさせるのか?
パパパン。
空気が破裂する。
連続的に打撃が襲った。
その全てを受け流す。
最後に拳を受け止めて、合波でひっくり返す。
床に叩きつけられるカノン。
まっすぐ飛び起きた其処に、僕は手刀を突き付けた。
「――――――――」
言葉が出ず、警戒に汗を流すカノン。
「さて問題です」
僕は手刀を突き付けたままだ。
「人の手刀で皮膚を切り裂くことは出来るでしょうか?」
答えを確かめたいなら、反撃すれば良い。
その場合の結果については……さすがに責任の範囲外。
「人外……っ!」
「ま、そういうよね」
あながち間違ってもいないんだけどさ。
「……参りましたぁ」
ハンズアップするカノンでした。
「ウーニャー!」
ウーニャーが……というより乙女たちが、歓喜の言葉で僕を祝福するんだけど……こんなことで優位に立っても……ね……。
「パパ凄い」
「凄いですね……杞憂でしたか……」
やっぱりリリアは最後まで心砕きしていたらしい。
愛い奴。
イヤ本当に。




