081 愛在る行為
「つけられています」
「だね」
そこはしょうがない。
「同性でもストーカーって成立するのかな?」
「どうでしょう?」
本気で思案もする。
何かと問われれば、僕とツナデでスーパーに寄る手前、カノンのストーカー行為が浮き彫りに為る形で、今も追尾されております。
フレアは無いし。
「しょうがない」
曲がり角を曲がったところでオーラを展開。
だいたい五百メートル半径。
印を結んで、術名を唱える。
「透遁の術」
透明になる遁術だ。
逃げるという意味で、一番純粋な遁術かも知れない。
「ふえ?」
曲がり角を曲がった瞬間、コッチが消えたのだ。
そりゃカノンも困惑はするだろう。
はた迷惑なので、探して貰いましょう。
「お兄様はお優しいですね」
「そーかなー?」
「一応ツナデはお兄様一筋ですからね?」
「そこは疑ってないよ」
散々思い知らされているし、思い知ったし、ついでに未来に於いても思い知ることになるだろう案件だ。
「今日は何するの?」
「ザルラーメンなどどうでしょう?」
「うん。好み」
ラーメンは美味しい。
文化の極みだね。
「で、結局カノンはどうするの?」
「どうしましょう」
「仕事に差し支えあるならこっちから説得するけど?」
「いえ、次の選挙まで諜報機関の動きを掣肘するだけですので。さすがにそんな事案の邪魔になるにはカノンは平凡すぎませんか?」
「それもそうか」
この時点で、僕とツナデの認識は間違っていた。
「で、ストーカーと」
愛されてるね。
「セクハラです」
「じゃあ以降気をつけよう」
「むしろお兄様にならガンガン攻めて欲しいんですけど」
「妹にセクハラして喜ぶ趣味は無いよ」
「兄にセクハラされて喜ぶ趣味を持っていますけど……」
難儀なことだね。
会計して、外に出る。
スーパーでは、さすがに透遁の術は使えない。
「お姉様ぁ!」
パァッと輝く大輪の花。
乙女……カノンの笑顔の眩しさよ。
「奇遇ですねぇ!」
ストーカーをしておいて、奇遇とぬかすか此奴は。
「奇遇ですね」
ツナデは穏やかに笑ってた。
「これは運命を感じます。魂が引かれ合っているのではないでしょうか? きっと私たちは運命の赤い糸で結ばれて存じますぅ」
「だそうですよ? お兄様?」
「良かったね」
「お兄様!」
挑発する方が悪い。
皮肉で返されて怒るなら、皮肉を言わないで欲しい。
「これも愛の為せる御業ですぅ」
「うーん。末期症状」
「同感です」
この場合は何を処方すれば良いんでしょうね?
「それでカノンは偶然出会ったツナデに何か用?」
「お姉様ぁ」
「はいはい」
案外付き合いは良いらしい。
「付き合ってくださぃ!」
「謹んでごめんなさい」
付き合いは良いけど、付き合うのはゴメンのようだ。
「乙女は乙女で完結すべきですぅ」
「非生産的です」
君が言う?
いや、意見するわけでもないけども。
「お姉様も夕餉の用意ですかぇ?」
「ですね」
「朝は居ませんでしたよねぇ?」
「何で知ってるんですか?」
「愛故にぃ」
ほんと~~に、ソレだけの理屈で済ませようとするからカノンはタチが悪い。
多分ネコだけど。
「何なら食べて行かれますか?」
「宜しいのでぇ?」
「一人増えても十分な食事ですし」
「では頂きますぅ!」
ギュッと彼女はツナデを抱きしめた。
「さてそうなると」
思案。
「ちょっとした機会ですね」
あ。
なにかヤな事、考えてそう……。
結果論で語ればこれは正解だった。
今の僕には知る由も無かったけど。
「ま、いいか」
そんな感じでお茶を濁すのは、ま、何時ものこと。
「お姉様の料理ぃ……」
「嬉しそうだね」
「はぃ!」
春爛漫。
桜は散ったけど、頭の中は春らしい。
ついで、恋心を持て余す乙女の心情は、僕如きが推し量れるような次元ではない……というかそんな次元なら、周囲はもうちょっと上手く回っている。




