079 湯豆腐
「はむ」
「はむり」
「はむ……」
「はむはむ」
「はむね」
「はむです」
そんな感想。
湯豆腐を口にして。
「ウーニャー! 良い匂い!」
「えとぉ」
カノンがウーニャーを見る。
「ドラゴン?」
「です」
「です……」
「ですね」
「だね!」
「ウーニャー!」
「よねぇ」
「他にありませんし」
袋だたき。
一応隠すべきかとも思ったけど……まぁ一人に知られたくらいで、拡散する話題でも無いだろうと……結果放置しているわけで。
「はぁ」
とカノン。
栗色の瞳が揺れる。
「ドラゴン……」
思案するようなカノン。
「何処で見つけたのでぇ?」
「インドの山奥です」
ツナデは清々しいまでに嘘を吐く。
たしかに、
「異世界に行ってました」
は通じないけども……もうちょっとこう……特撮染みた言い訳をしなくても、論弁で誤魔化す程度のことは期待できたのよ……?
マジで。
「それで湯豆腐の味は?」
「お姉様の愛を感じますぅ」
「お兄様は?」
「心砕きを感じるね」
「愛は?」
「それを僕に求めるの?」
「イッツお兄様ラブですから」
「カノンさんが愛してるってさ」
「ですぅ! お姉様の伴侶には私ことカノンが相応しいと思いますぅ! ぶっちゃけ男なんて性欲の塊で、抱かせてくれるなら誰でも良いんですよぅ!」
ソレも否定できない。
「実際抱いたでしょぅ? ハーレムをぉ?」
湯豆腐パクリ。
うむ。
暖まる。
「マサムネ様は誰も抱いていませんよ?」
「それが……難題……」
「だね!」
「ウーニャー!」
「お姉さんはそんなに魅力無いかしら?」
「えと。そう言う問題でも」
「……………………」
カノンが不審げに僕を睨む。
「ガチでぇ?」
「何が?」
「こんなに美少女に囲まれて、手を出していないのぉ?」
「証言通りに」
湯豆腐をハムリ。
ダシが利いている。
ついでに紅葉おろしも。
「ゲイ?」
「ソレも聞いた」
そんな趣味は無い。
女の子で十分だ。
殊更男色に奔る余裕も無い……と言えば、ある種傲慢で、そっち方向の人に対する侮蔑にも取られかねないけども。
「単に責任が取れないから抱いてないだけ」
「責任なんて要りませんのに……」
ツナデは悔しそうだ。
これも何時ものこと。
「私だったらツナデお姉様に抱かれて仕上げますよぅ! ぶっちゃけたはなし抱いてください! 色々と社会勉強にもなりますしぃ!」
「謹んでごめんなさい」
丁寧に介錯をするツナデだった。
「そんなにマサムネが良いんですかぁ!」
「お兄様は私の全てです」
「ついでに私の全てで」
フォトンが追従する。
「リリアの全てで……」
「イナフの全てで……」
「ウーニャー!」
「お姉さんも愛してるし」
「私もです」
ヒロイン勢揃いで意見一致。
いやぁ。
モテる男は大変だ。
ぶっちゃけ大変なのは、ある意味でヒロインたちの方だろうけど……そこはやぶ蛇になるので突っつかないのが健全な処方。
「む……ぐ……」
悔しげなカノン。
「とりあえず湯豆腐でもどう?」
よそってあげる。
「美味しいですぅ!」
ソレは良かった。
心底から。




