魔の国22
「はふー」
僕は安穏として息を吐いた。
「極楽極楽」
ここは風呂場。
クランゼの宿舎の浴場である。
広々とした空間で五人くらいまでなら一緒に入れそうな大きな風呂だ。
そこに僕とフォトンは浸かっていた。
僕はといえば先ほどまで忍としての訓練をして汗をかいていたから汗を流せるのは大歓迎だ。
この際だからお風呂を作り出す魔術とか覚えようか……。
そんなことを考えていると、
「マサムネ様」
僕の名を呼んでスススとフォトンが近づいてきた。
ちなみに僕もフォトンも水着着用である。
とまれ、
「何さ」
と僕が問うと、
「マサムネ様の体は逞しくて素敵です」
そんな趣味の悪いことを言ってフォトンは僕の体をまさぐるのだった。
「鍛えてるからね」
僕は当然と述べた。
「毎日あんな無茶な訓練をして壊れないんですか」
「無茶……かなぁ?」
「無茶ですよ」
フォトンは断じる。
僕としては無茶をしているつもりはない。
背筋、腹筋、脚部、腕部を鍛えているだけだ。
「背筋と腹筋は運動させないで限界まで引き延ばして一時間固定させるじゃないですか。脚部は凄まじい勢いでスクワットしますし、腕部に至っては一本指で体重を支えて逆立ち腕立て伏せ……普通の人間ならオーバーワークですよ」
「慣れだよ」
もうこれが習慣だから、正直苦痛と感じたことはない。
そう言うと、
「まぁ逞しいマサムネ様の体は魅力的ですけど」
うっとりとフォトンは僕の体をまさぐる。
そういえば君、僕を召喚した日も僕の体をまさぐってたね。
それを言葉にしようとした瞬間……カララと浴室の扉が開き、一人の女の子が入ってきた。
「リリア……」
利休鼠色の髪を持つ美少女……リリアがタオルで裸体を隠しながら宿舎の風呂場へと入ってきたのだった。
「あ……う……」
とモジモジしながらリリアは風呂から湯を汲んで自身の体にかける。
それから石鹸で体を洗い、僕とフォトンの浸かっている風呂にリリアもまた浸かるのだった。
リリアは羞恥に顔を真っ赤にしながら僕のすぐ隣に腰を下ろした。
浸かっている浴場の、僕の右にはフォトンが、左にはリリアが座っている。
そしてフォトンもリリアも僕の腕に抱きつくのだった。
フニンとした感触が両腕から伝わってくる。
六根清浄……六根清浄……。
フォトンほど恵まれた体型ではないけどリリアもしっかりと胸はある。
その胸が押し付けられているのだ。
どうにかならないのは偏に僕の精神力のたまものだ。
完璧なプロポーションを持つツナデの甘い誘いをも跳ね除けてきたヘタレである僕は、この程度の誘惑には屈しないのである。
閑話休題。
「何がしたいのさリリアは」
「その……お礼を……」
「何か礼をされるようなことしたっけ?」
「アンバーから……リリアを……守って……くれました……」
「偶然ね」
「だから……お礼を……」
「お礼って……何を……」
「リリアを……抱いてくださって……かまいません……」
何を言い出すんだ……この処女は。
「じゃあマサムネ様。私とリリアとマサムネ様で3Pしましょう……!」
3Pって言葉まで通じるのか、この世界は。
ともあれ、
「抱く気はないよ」
せっかくだけど僕は拒否した。
「リリアに……魅力は……ないですか……?」
「十分魅力的さ。リリアは可愛い。抱いてみたい。そんな欲情は確かにある。ただ今のリリアの感情は恋に恋するものだ。そんな乙女を抱くほど僕は堕落してないよ」
「リリアの体を……好きにしてくれて……いいんですよ……?」
ムニュッと僕の腕に胸を押し付けてくるリリア。
「じゃあ抱きたくなったら僕から提案するから」
「でもマサムネは……明日には……国際魔術学院を……出るのでしょう……?」
「まぁ魔術についても学ぶべきは学べたからね」
「では……今生の別れに……なるでは……ないですか……」
「そんなことはないよ。僕は空間破却を使える。国際魔術学院の座標も覚えた。その気になればいつでも国際魔術学院に転移できる。だからリリアに会おうと思えばいつでも会えるんだよ」
「では……いつか……いつかは……リリアを……抱いてくださるのですか?」
「そんな気分になったらね。ていうか僕に抱かれたいの?」
「はい……。リリアは……マサムネに……抱いてほしい」
僕は僕の腕に抱きついているリリアを振りきって、ポンとリリアの頭に手を乗せると、クシャクシャとリリアの髪を撫ぜた。
「じゃあ約束。リリアを抱きたくなったらいつでもここに空間破却してくるから」
「約束……です……」
リリアはニッコリと笑うのだった。
「マサムネ様~……私は抱かないのにリリアは抱くんですか~?」
そんな茶々を入れたのはフォトンである。
「そういえばフォトンも僕に惚れていたんだっけ?」
「そうですよ~」
不満げなフォトンだった。
まぁ付き合う義理なんて無いんだけどさ……。
僕はフォトンとリリアの両手に花の状態で肩まで湯に浸かると、時間を百まで数えるのだった。
六根清浄……六根清浄……。