066 チンピラさんの報復
「よう」
チンピラさんに絡まれた。
図書館の帰り。
「…………」
ジャンヌは目が据わっている。
「この前は世話になったな」
「誰?」
本気で覚えが無い。
「忘れたのか!」
「だから誰」
名前を言われても、思い出せなかった。
で、
「何の用?」
突き詰めると其処に行き着く。
「お前のせいでこっちは人生滅茶苦茶だ!」
「何かしまして? いや申し訳ない。補填の効くことですかね?」
「ぐ……」
どうやらこちらに非は無いらしい。
「じゃあそゆことで」
サラリと去ろうとすると、
「…………」
チャキッと光り物。
ナイフだ。
「警察に連絡しますよ?」
「どっちにしろ舐められるならそれもいいだろうよ。一生癒えない傷を背負いたいならそうしろ。こっちとしてはどうでもいい」
過去の僕。
何をした?
少し勘案にも値する。
そう思っていると、
「――――――――っ!?」
グニャリとナイフが折れ曲がった。
まるで強い熱で叩かれたように。
「ジャンヌ?」
「はい?」
「ジャンヌの仕業?」
「まぁ」
炎と熱を操るジャンヌの異能……ファイヤースターター……あるいはパイロキネシスト……要するに炎を自在に操る魔術だ。
何故か現代社会でも使える神秘の一つ。
これだけでもジャンヌは特筆できる。
「いっつ……!」
今度はチンピラさんが痛みを覚えた。
ジャンヌの干渉だろう。
足下を焼いたらしい。
後刻そう聞いた。
人格崩壊する熱量を浴びさせられるらしいけど、今回の場合……コッチに関しては自重を自分に課した……とのこと。
「熱い。痒い。何をした?」
「僕は何も」
ハンズアップ。
――むしろ何をされているので?
そう思える。
「舐めてんのか!」
ナイフを振りかぶる。
「――――――――」
意識が収斂する。
意識。
刹那。
行動。
能動。
タンと音がした。
僕が地面を踏みしめる音だ。
一瞬でチンピラさんの懐に潜り込むと、そのナイフの射程を無意味化せしめ、勁を練って一打を放つ。
「が――――!」
どうやらチンピラさんには苦悶のようだ。
別に興味もないんだけども。
さらにジャンヌが炎を繰る。
あちこちが火傷してかゆみを覚える。
その気になれば焼死体に出来るのだろう。
あえてそうしなかった理由が……僕の思考には手に取れるように認識……あるいは把握か……出来るのだった。
「痒い! 痒い! お前! 何をした!」
「何も」
事実だ。
僕は何もしていない。
灼熱の御子。
ジャンヌだからこそ出来る御業だ。
さすがにそこには……僕の申すべき事柄と言いますか……あるいは事情説明の義務と言いますか……その点で安易な講釈は必要ないんでしょうけども。
「ジャンヌ。やり過ぎはダメだよ?」
「承って」
一礼するジャンヌ。
「痒い! 痒い! 痒い!」
僕はねじ曲ったナイフを手に持っているチンピラさんを速写した。
そして警察に電話をかける。
さすがにナイフで脅すのは社会通念として犯罪だ。
その点で、法律は僕を味方する。
「さて、後は警察に任せましょうか」
一応事情説明にいる必要はある。
けれども付き合いがいい加減でも無い。
「つまりナイフで此方の少年が脅したと?」
「報復みたいですね」
爽やかに笑う。
「それで僕の安全は保証できるのでしょうか?」
「さすがにナイフを出されると」
「ねじ曲ってますけどね」
ジャンヌの仕業だ。
其処の説明は、しないことにした。
当たり前だ。
魔術と呼ばれる領域。
むしろ信じられたら、そっちの方がややこしい。
「事情は分かりました」
分かられたらしい。
「後は警察の領分です。お気を付けて」
無関係を強調するなら否やはありませんけども。




