064 ジャンヌの朝食を
「むに……」
微睡む意識に、
「起きてください」
刺さるような声。
「もうちょっと寝かせて」
「じゃあお好きに身体を弄らせて貰いますね」
「起きるよぉ」
如何ともしがたい。
「おはようございます。マサムネ様」
赤い髪に赤い瞳。
ジャンヌがいた。
「何で僕の起こし方知ってるの?」
「ツナデ様に聞きました」
「ですか」
「ツナデ様はお忙しいようなので、不肖、私めが朝食を作らせて貰いました」
「メニューは?」
「トーストとサラダとスクランブルエッグ。あとはコンソメスープですね」
「ありがと」
赤髪をクシャクシャと撫でる。
「あは」
嬉しそうだね……。
「それでは朝食にしましょう」
「へぇへ」
ウーニャーはまだ寝ていた。
これもこれで大物だ。
ダイニングに付くと、コンソメの香りが鼻孔をくすぐる。
「うーん。デリシャス」
「食べてもいないのに?」
「香りだけでも確かな仕事をしていることが分かるよ。ありがとうございます。ジャンヌに最大級の感謝を」
「然程ではありませんので!」
あわあわと狼狽えるジャンヌでした。
「コーヒーはお飲みになられますか?」
「お願い」
「では」
コーヒーメーカーがプシューと音を鳴らす。
「おはようございますマサムネ様」
「おはようございます……その……マサムネ……」
「おはよ! お兄ちゃん!」
「おはようね。マサムネちゃん?」
「どうも」
僕は簡素に返した。
食事はまちまちに進んでいた。
席に座って食事をとる。
コーヒーと一緒に。
スクランブルエッグをトーストにのっけてハムリ。
玉子と小麦粉の味が口内に広がる。
「どうでしょう?」
「美味しいよ」
パァッとジャンヌの表情が輝いた。
感激も一入らしい。
「基本貧乏舌だし」
大抵のものは美味しいという。
コンソメスープもインスタントだけど、僕の舌を楽しませて……なんというか、魯山人に喧嘩を売るような安い味覚でございました。
けれどジャンヌはニコニコ。
「美味しい」
と評されて、
「乙女ゲージ限界突破」
である模様。
「えへへ」
「可愛いね。ジャンヌは」
口にすると、ピシッと空気にヒビが入った。
他の乙女には看過できない評価なのだろう。
「マサムネ様?」
「……マサムネ…………」
「お兄ちゃん?」
「マサムネちゃん?」
「別に他意は無いんだけど……」
何故責められる?
少し不条理なこの世の中で、北へ帰ろう故郷へ。
「じゃあマサムネ様?」
「はいはい」
「今日は私とデートしてくれませんか?」
「ジャンヌと?」
「いけませんか?」
「いや、そう言えばジャンヌだけは外に連れて行っていなかったね」
「はいです」
「そっか。僕は構わないけど」
「では」
約束を取り付けた。
「行きたいところとかある?」
「んーと、図書館に行ってみたいです」
「無難だね」
フィリアの秋葉原に比べれば。
「無理にとは言いませんけど……」
「大丈夫だよ。幾らでも付き合う」
「良かったです」
案外深読みもしないらしい。
ジャンヌらしいはその通りだ。
どこか控えめで、一歩後れる。
その分、どこか遠慮すると申しましょうぞ。
コンソメスープを一口……牛の旨味を再現する……といえばたしかにヨーロッパ風なんだけど、決して嫌いにはなれない。
いや、ヨーロッパは大好きですけど。
「一応服とかも調達したんですけど」
「可愛いジャンヌに期待」
「えへへ」
はにかむ乙女の愛らしい事よ。
それは何処の世界でも同じようだ。
乙女は世界を救う。
だからアイドル稼業は成り立つのだろうか?




