061 おでん
春頃の季節。
まだまだ夜は寒く。
けれど桜は散り舞って。
「というわけでおでんです」
何が、というわけで、なのかは置いておき、確かに愛妹……ツナデの仰るとおり、今日の夕餉はおでんでした。
「えーと」
「何ですかお兄様?」
「おでんの準備はいつから?」
「昨日からですけど……」
「仕事忙しいんじゃなかったの」
「時間は作る物です」
ダシを取り、味を付け、具材に染み込ませる。
既に伏線は張っていたらしい。
ホカホカのダシ染み入ったおでんが、鍋に入れられ詰め込まれ、ダイニングのテーブルに置かれておりました。
「おでん、ですか?」
フォトンがキョトン。
ま、異世界人には通用しないよね。
「まずは食べましょう。文句はそれからですよ」
ツナデの一言で丸く収まり、食事と相成った。
いただきます。
「で、最近の御様子は?」
「既述の如し」
白滝をハムリ。
「パソコン買ったわよ?」
フィリアの嬉しげな声。
「ついでにエロゲーも」
「十八禁!」
「フィリアは十八歳以上だし」
実年齢は公表しない方向で。
「別にいいんだけどね。危ないことはするなって言い含めてあるし。株にさえ手をださなければ、大きな間違いも起こらないよ」
「さすがにやり方は教えてませんよね?」
「それこそ、さすがにね」
兄妹で苦笑。
ツナデの方は苦笑いだけど。
厚揚げハムハム。
「うーん。ツナデのおでんは至福の味だね」
「お兄様……っ」
「美味しい」
「です……」
「だねー」
「よね」
「ですね」
異世界ヒロインズも同じ感想の御様子。
「この黒っぽい緑は?」
「昆布」
「こんぶ……」
ジトッと昆布を睨みやるフォトンさん。
「海藻だよ」
ダシにも使うんだけどね。
案外日本だけらしいけど。
「不思議な味で……けれど優しい味……」
「リリアは気に入った?」
「えと……はい……さすがツナデと……申しましょうか……」
「うんうん。僕の自慢の妹だよ」
「お姉さんたちも作れるようになれるかしら?」
「ツナデに聞いて」
「人それぞれ到達点は違いますけどね」
サラリと述べる。
「家庭料理は、基本的に料理の担当者の癖が出ます。同じレシピでも勘所の違いが大きな狂いとなるカオス理論の体相を醸すことも日常茶飯事。その意味で、ツナデと同じおでんは作れませんけれど、それぞれのオリジナルのおでんには辿り着けますよ」
「奥が深いのね」
「料理はそんなものです」
コンニャク~。
「うーん。何でしたっけ? 女子力……? そのステータス値で、私たちはツナデに大きな後れを取っていますよね」
「だから、出来るようになれば良いんだよ」
「師事しても宜しいので?」
「それこそ既にしてるでしょ」
キッチンの使い方を教わったり、料理に参加したり。
ツナデ不在で朝食を作ったのも最近の事だ。
大根モグモグ。
「ウーニャー! 良い匂い!」
頭に乗っているウーニャーが尻尾ペシペシ。
最近監督役でヒロインについて回っているので、ウーニャーを頭に乗っける機会も減っていた。
風呂や寝るときは論外だし。
なので今回はサービスだ。
尻尾ペシペシ。
「それにしても忙しそうだね」
「ですね。だから今日はお兄様とお風呂に入って癒されようと思います」
「……………………」
異世界ヒロインズが沈黙した。
そうなるよね。
疑心暗鬼を生じる。
「妹……ですよね?」
「生憎と血は繋がっておりませんけども」
幸いにも。
とは言わないらしい。
「他の女の子とは入っているんですから反論も無いと思いますけど」
「妹萌え?」
イナフが首を傾げた。
「そんな言葉よく知ってるね」
「ゲームに出てきた!」
ああ。
社会勉強には良いツールなわけだ。
「ここが地球で、宇宙が広いんだよね?」
「地動説ならね」
巫女は言った。
結局異世界も地球が舞台なのだ、と。
重力や酸素濃度、公転周期に自然法則。
であればコレもある意味で異世界観光。




