059 オムライス
「お帰りなさいませご主人様。お嬢様」
ルンと弾む声で出迎えられた。
「おお。メイドさん」
フィリアの驚愕たるやかなりのものだったらしい。
瞳孔が開いている。
「お席にどうぞにゃん」
猫耳フリフリ。
スカートもフリフリ。
「何此処?」
「メイド喫茶」
喫茶店の一種だ。
「なるほど。擬似的な風俗に喫茶店を挟んだ……」
そんな現実的な解釈をしないで!
夢と理想の喫茶店で良いじゃん!
「使用人プレイを楽しめる喫茶店なんですね」
「…………それでいいです」
「でも可愛いですね。特に服とか。使用人の服……にしては手が込んでいるというか煌びやかですよね。フリルも付いてますし、スカート短いですし」
「エロは地球を救うの」
環境問題的に。
「で、この意図不明なお品書きは?」
「前提知識がないとわかんないよね」
ここら辺が、僕が監督しないと外出できない理由だ。
「オムライスを頼みましょ。ここは料理にも力入れてるから」
「そうなので?」
「ネットで調べるに、食事処としては評価の高い店だし」
「ネットってそんなことも出来るんですね」
「まぁ怖い面もあるけどね」
「ご主人様にお嬢様。ご命令はありますにゃ~?」
「お嬢様……」
フィリアさん、目が輝いておりますぞ。
「お嬢様……良い言葉ね……」
とりあえず注文。
オムライスを二つとコーヒーと紅茶。
コーヒーは僕だ。
「承りましたにゃん」
そして去って行くメイドさん。
「良いですね此処」
「うーむ。そっちの嗜好があったか」
電車もそうだけど、色々と斬新な物に興味を示すらしい。
思えばパソコンからそうだった。
「こっちの世界はどう? 楽しい?」
「毎日がビックリ箱よ」
「その内慣れるよ」
「ソレも勿体ないわね~」
あー……。
その気持ちは分かる。
娯楽に触れて、完全に忘れてからもう一度……を望む感傷に近い。
あの感動をもう一度、だ。
「にゃんにゃん。オムライスだにゃん」
コーヒーと紅茶も来た。
「ケチャップの文字サービスはどうしますかにゃ?」
メイドさんも大変だ。
「愛ラブメイドで」
何時もの様に、何時もの如く。
「えーと」
フィリアはついていけてない。
「そっちには地球破壊爆弾で」
「にゃにゃにゃ」
そしてその様に。
「お嬢様?」
「はい。何でしょう?」
「紅茶にお砂糖とミルクは要りますかにゃ? こちらで混ぜ混ぜさせて貰いますにゃーよ?」
ちなみに僕はブラックで。
「お、お願いします……」
「では失礼して、混ぜ混ぜにゃー」
「…………」
何事、と目で訴えかけてきた。
サービス、と目で答え返した。
「出来たにゃー。褒めてくださると嬉しいにゃ?」
「ありがとうございます。良く出来ました」
「にゃにゃにゃ。また何かご用命があればどうぞにゃ。お嬢様?」
「お嬢様……」
「メイド萌えか~。たしかに鉄板ではあるけども。フィリアの意外な一面が見られた意味で、ここは正解だったわけだ」
「だってメイドさんが『お嬢様』ですよ? ロマンがありません? マサムネちゃんだってご主人様って呼ばれているじゃないの」
「そういう店だし」
アイスコーヒーをストローで飲む。
チューと。
「うちの近くにもメイド喫茶はあるよ?」
「連れて行って?」
「機会があったらね。ソレよりオムライスを食べよう」
愛ラブメイドをスプーンで掬う。
ハムリ。
味の付いた御飯にとろふわの玉子。
ネットの評価が高いだけあって、堅実な美味しさだ。
「ん。美味し」
「本当ね。美味しいわ」
「舌に適ったなら良かったよ」
「ありがと、マサムネちゃん」
「エスコートも監督の務めですので」
「えへへ」
ちょっと年齢が退行しているフィリアさん。
楽しんで貰えるなら、それが一番良いわけで。
アキバに来た甲斐もあったのだろう。
「じゃあコレ食べたら何処行こっか?」
「パソコン!」
「じゃあ駅近くの電気店かな?」
「ゲームも売ってる?」
「エロゲーとか?」
「えろげえ?」
何でもございません。
あかん。
墓穴を掘った。




