058 電車
「えーと」
地図と路線を確認して、何処に行くべきか悩んでいるフィリアさん。
東京の秋葉原までの電車だ。
別段遠くもないので、軽く行ける。
「にしても掲示板の映像なんてあんな気軽に設置して良いの?」
「そこはまぁ社会発達のおこぼれですな」
ピッとスマホで清算。
多分フィリアの勉強を待っていたら夜になる。
「こっちだよ」
「乗り場分かるの?」
「そりゃまお国の地図程度は頭に入ってるし」
アキバには行くしね。
すぐに目的の電車は来た。
「本当に走ってる」
「まぁ電車だし」
走らなかったら詐欺だ。
これもインフラの一つ。
「帽子は大丈夫? 辛いならとってもいいけど」
「うーん。でも水色の髪は浮くでしょ?」
実際周りは黒が大半だ。
時折、茶や金は見かけるけども。
「秋葉原なら幾らでも露出して良いんだけどね」
「そんな街?」
いやどうだろう?
メイドさんがちらし配ってるくらいだし。
ウィッグと思えばありなんじゃないかな~とか?
そして電車が走り出す。
「ふお。動いてる」
文明人の言葉ではなかった。
流れる景色に驚いているのは、イナフと同じ。
「便利ね」
「そりゃね」
「こんな大勢が乗ってるのに馬より速いんだもの」
そこ。
露骨な発言しない。
何処の未開人だ、みたいな目で見られるから。
「これはハマりそう。電車かぁ。速いし、便利だし、情緒あるし。その内お姉さん一人で乗れる様になりたいわ」
「頑張ってください」
「教えてくれないの?」
「んにゃ? 幾らでも教えるよ?」
「だから大好きよマサムネちゃん」
密着。
幸せ。
なんというか。
フィリアの身体は柔らかい。
「トライデントは持ってこなくて良かったの?」
「野盗でも出るの?」
「出ないけど」
「それにマサムネちゃんもいるし」
それはね。
確かにね。
大凡、秋葉原の治安なら不覚もとらないだろうし……というかそもそも僕の戦力が必要ないレベルだ。
一体誰と戦っているんだ?
そんな感じ。
ガタンゴトン。
「これ。アキバに向かってるの?」
「さいです」
「途中駅で間違って下りたりしないの?」
「そこら辺は慣れですな」
そこまでの器用さをフィリアには求めていない。
少しずつ学べば良いだけだ。
「ふぅん」
流れる景色を見やる。
ガタンゴトン。
「ウーニャーあたりなら跳ねて喜びそうだよね」
「あー。分かるわー」
今日は連れてこなかったけど。
イナフとゲームするだけでも時間は潰せるだろうし。
結構俗世を楽しんでいらっしゃる……。
「電車は文化ね」
「鉄オタみたいな発言だね」
「鉄オタ……鉄道オタク……」
スマホで調べるフィリアさん。
この辺の利便性は、ちょっと昔のSF並みだ。
宇宙開発には成功していないけど、無線通信の奇形的発達は、この際現代文明の拠り所だろう。
情報の代わりに即時届けるのが電車ってワケで。
「深いのね」
鉄オタにも色々いますので。
「でも電車が好きって言うのはわかるかも」
「スマホで撮れば?」
「いいのかな?」
「自分の乗った電車をスマホで撮って画像に収めれば、ブログとかツイッターのネタになるし」
「やってないんだけど」
一応知ってはいるらしい。
家のパソコンはフィリアとジャンヌがよく使っている。
「てきと~にアカ作れば始められるよ」
「教えてくれる?」
「おきどき」
ネットリテラシーからだね。
さすがに炎上はゴメンだ。
何故かネット民って、幼児化するからなぁ。
これを僕はネットデバフと呼んでいる。
使っているのは良い大人だろうに。
ガタンゴトン。
「スマホのカメラは……」
あ。
電車の撮影はするのね。
うん。
楽しいのがあることは純粋に良い事だ。




