057 型稽古
「――――――――」
僕は道場で型稽古をしていた。
武闘の基礎だ。
数千数万の型の動きを、身に染み入らせる。
「良くやるわね」
フィリアが苦笑を浮かべた。
「まぁ。何時ものことだけどね」
「こっちの世界は安全じゃないの?」
「世界って言うか国がだけど」
地獄にも等しい国際情勢はあるわけで。
というかある種、ツナデも危ない橋を渡っている。
あの身体で、筋肉を搭載しているのだ。
どれほど至高の身体をしているのか。
その証左とも呼べよう。
「おかげであっちの世界で会えたわけだから、お姉さんとしても強くは言えないけど……一日中やるつもりなの? その訓練?」
「んにゃんにゃ」
素振りフリフリ。
「休憩しないと筋肉が強くならないし」
「じゃあ休息はとるのね?」
「だね」
型稽古をしながら。
「じゃあお昼御飯食べたらお出かけしない」
「構わないけど」
汗が滲む。
あまり長物は得手じゃないけど、基本は身につくのだ。
「お姉さん、秋葉原に行ってみたいわ」
「何処でその情報を?」
「ネット見たらいつの間にか」
オタク系のサイトを回ったのだろうか?
「スマホでも時折目にするし」
「ぐだぐだしてる?」
「少しね」
時間の空費はソシャゲの良いところ。
「で、アキバね」
さて、どうしたものか。
「何か目的が?」
「えーと……なんだっけ?」
何か言葉を探しているらしい。
「うー」
とか、
「むー」
とか悩んだ後、
「聖地巡礼……って言うんでしょ?」
「なるほど」
本来の意味ではない。
俗事の意味でもない。
本来の聖地巡礼なら、普通に文化的活動だ。
俗事の意味でならサブカルの舞台を巡礼。
秋葉原は、たしかにオタクの聖地なので、一種巡礼ではあろうけども。
「なんか楽しそうな街じゃない?」
「否定はしないよ」
竹刀フリフリ。
「パソコンのゲームとか売ってるんでしょ?」
「そりゃま」
別にアキバに行かなくても売ってるけども。
ノーマルも十八禁も。
「あと電気関係?」
元々そっちが主流だしね。
「パソコンとか売ってないの?」
「売ってございます」
「買える?」
「そりゃね」
その程度は端金。
「うーん」
何悩んでるか知らないけど。
「結構色々あるよ?」
「楽しみね」
「電車の乗り方は分かる?」
「調べはしたけど……」
百聞か。
たしかに。
「実際に乗ってみるのが一番か」
ヒュンと回転。
竹刀による薙ぎの一撃。
その回転にあわせて、汗が飛び散った。
「わお」
軽業だ。
「じゃあ雑巾掛けだね」
そんなわけで後始末。
「昼食がてらにでも出かける?」
「都合は大丈夫かしら?」
「こっちは問題ないよ」
雑巾掛け~。
「昼食はどうするの?」
「オムライス!」
「おむらいす?」
「スマホで調べてみると良いよ」
「いいけど」
そんな感じ。
「それにしてもイナフちゃんもそうだけど、どうやったらそんなにストイックになれるのかしら。お姉さん感心……」
「まぁ幾ら鍛えてもトライデントには敵わないんだけどね」
「不意打ちすれば?」
「フィリアが敵方に回れば考慮しましょ」
「お姉さんはマサムネちゃんの味方よ?」
「そう言いますよね」
「本音なんだけど」
それは知ってござんす。
「砂漠の緑化から始めましょうか」
「生産的ね」
「それがトライデントなら叶うからね。ところで」
「はいはい」
「汗掻いたからお風呂に入りたい。入れてくれる?」
「お姉さんに任せなさい」
ウィンクするフィリアでした。




