056 ツナデの朝食
「あむ」
ツナデが一人……モーニングをしていた。
早朝処ではない。
ギリギリ深夜帯だ。
「どしたの?」
ふと目が覚めたので、自室を出、キッチンに茶を飲みに来たら、食事をしているツナデとかち合ったわけで……ちょっと意外のようなそうでもないような寂しいようなそうでもないような。
「いえ。朝食」
「夜食じゃなくて?」
「一応、仕事関係で出なくてはなりません由」
「僕がフォローしようか?」
「適うならソレも良いでしょうけどね」
たしかに僕はブランド品ではない。
加当の血は受け継いでいないのだ。
それにしては人外に産まれたけども。
「ツナデは仕事に根詰めすぎ」
「あう」
「一人で家計を支えるのも大変でしょ? 少しは休暇貰ったら?」
「一応、愚兄の後始末はしなければなリませんから。次の選挙までは、諜報活動も仕事の内です」
「選挙ね」
嫌な単語だ。
企業も暴力団も宗教団体も絡む一大事。
敵性を追い落とす意味で、インテリジェンス機関は不滅でもある……とは知識では知っていても、愛妹さんが身を粉にするのは、あまり許容も出来なかったりして。
じゃあ自分でやれよって話だけど。
「ツナデが許すはずもなし、か」
「お兄様?」
「すぐ出るの?」
「茶を一服したら」
「僕の分もお願い」
「承りました」
そんな感じでお茶の時間。
「女子たちはどうしてます?」
「好き勝手」
別に悪感情で言っているわけでもない。
屋敷は十分広いし、裏山もある。
インフラも整ってるから、生活に苦は無い。
買い物もネットで出来るし、僕が監督すれば外にも出られる。
さすがにフリーダムに過ごされては、監督役としても偏頭痛の種になるかも知れないけど、基本的にこっちの文明とは最初からギャップが存在もする。
「多分ツナデが一番気を許せる」
「いやん」
やんやんと両頬に手を当て、ハートマークを散らしながら、照れ笑いのツナデさん。
御本人が喜ばしいなら、結果オーライかな。
「……………………美味し」
玉露を飲んだ。
茶の淹れ方には一日の長がある。
「愛故に、です」
「中々に趣味の悪いことで」
「他の女子にも言えますか?」
「言葉を発するという意味でなら」
サラリと述べる。
「まだ抱かれてはいませんよね」
「童貞です」
自慢できるこっちゃないけども。
「お兄様の筆下ろしはツナデがしますので」
「御光栄に」
「本気ですよ?」
「熟々承知」
「予約ですからね?」
「却下」
「むー!」
ていうかヒロインズはそればっか。
愛と性欲を取り違えてございませんか?
「エッチな女の子は嫌いですか?」
「大好きです」
これは本当。
ツナデに欲情するのも仕方ない。
性欲は愛の前提だ。
さらに此奴は恵まれすぎている。
裸体の美しさはフォトンと双璧だ。
フィリアの場合は、熟れすぎている。
いや、あのパイオツの感触は忘れがたいとしても。
柔らかかったなぁ……。
パイオツ……。
グイと茶を飲み干す。
薬効煙をくわえて、火を点けた。
「今日の夕飯は帰ってこれる?」
「仕事如何ですね」
「そっか」
煙を吸って吐く。
「有意義な時間でした」
ホッと茶を飲み干して吐息。
「もう行くの?」
「ええ、時間的に良い塩梅です」
「無理はしちゃダメだよ?」
「そのつもりはありませんけど……そうですね。お兄様の傍を離れるのは危ういですね」
それもどうかと。
「では客については頼みます」
「はいはい」
「デートとかしてるんですか?」
「お出かけはしてるかな」
「後刻ゆっくりと聞きましょう」
「お仕事頑張って」
「その躱し方はいまいちです」
「ウィットの効いたジョークは能力の内ではないしね」
「まずお兄様の卑屈根性をどうにかしないと」
「生まれの業だしなぁ」
「育ての業です」
三つ子の魂百まで。
「環境のせいにするには、自覚的すぎるんだよね」
「其処まで含めて愛しております」
乙女心ってこんなに安かったっけ?




