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忍術師と魔術師の異世界観光日和  作者: 揚羽常時
ある意味異世界観光
435/512

055 月は夜にて冴え渡り


「ほふ」


 僕とイナフは縁側で茶を飲んでいた。


 ツナデがいないので、夕食は異世界ヒロインズのお手製。


 無難にパスタだった。


 で、添い寝をするにも眠気が必要で。


「月が綺麗だね」


「だね~」


 僕とイナフはデカフェの紅茶を飲んでいた。


 まったりと刻を過ごす。


「ウーニャーは?」


「既にお休み」


「じゃあ今、お兄ちゃんはイナフの物?」


「そう相成るかな?」


「抱く?」


「後刻ツナデに殺されていいなら」


「どっちが?」


「どっちもかな」


 毒入りスープで一緒に逝こう。


 その程度はしてのける。


「にゃ~」


 イナフにおかれましては焦れったいようだ。


「僕に言われても」


 懸念なき本音。


 少なくとも騙す意思は無い。


「お兄ちゃんはツナデお姉ちゃんを好きすぎ。別にそれは否定されることでもないけど……なんていうかラブリーがピュアすぎるから、他のお姉ちゃんたちも、隙あらば……って思ってる。もちろんイナフも」


「だよねー」


 そこは同意。


 僕はツナデに甘い。


 コッチの世界での味方はツナデ一人だった。


 そしてフォトンに救われた。


 どっちが正しいのかは議論しないけど、






「――もう迷いません。誰が何と言おうと、ツナデはお兄様を全面的に味方します。そこに異論を差し挟む人間が居れば、実力で以て排除します」






 実際に妹を追い詰めていたわけで。


 それが僕で。


 それだけが僕で。






「どっちが残酷か?」






 なら……ソレは僕の方だった。


 間に合わなくてゴメン。


 覚れなくてゴメン。


 傷つけてゴメン。


 本当に……本当に…………。


 ダメなお兄様だ。


 僕は。


 僕が不幸であることを、ツナデを不幸にするなんて思ってもみなかった。


 今漸く気づけて、


「何が出来る?」


 それも命題だけど。


「イナフは僕のこと好き?」


「そりゃ……好きだよ」


 うん。


 嬉しい。


「それに応えられない自分に反吐が出る」


「別にお兄ちゃんを追い詰めるために好きなわけじゃないから」


「皆そう言うよね」


「イナフたちはお兄ちゃんの足かせになりたくないの」


「ハーレムエンド?」


「お兄ちゃんが望むならね」


 紅茶を一口。


「月が綺麗だよね」


「さっきイナフが言った」


「知ってる」


 でも月が綺麗なのには別の意味があって。


 異世界組が知らなくて無理はないけども。


 巫女は何処までを弄ったのだろう?


 少しそう思う。


「今更……か」


「お姉ちゃんのこと?」


「他にも色々と」


「フォトンお姉ちゃんは感謝してたよ」


「そのために世界を渡ったからね」


 そこは履き違えていない。


 魔術の無い世界なら、フォトンは無価値でいられる。


 無価値……というか普遍だね。


 一般的に生きて、一般的に死ぬ。


 その生理現象が適応されるのだ。


 そして多分……、


「ブラッディレインの意思には沿わないだろうけど」


 少し、そう思った。


 紅茶を飲み干す。


「じゃあ寝よっか」


「ん……」


 イナフはフラフラしていた。


 眠いらしい。


「負んぶしてあげよっか?」


「お願い。眠い」


「では承りまして」


 軽いイナフを負んぶして僕は自室に戻った。


 この軽さで、あの威力だ。


 其処に練られた勁は、とても信じられないものでもあった。


「夜の桜に、夜の月。月に叢雲、花に風……か。風流を解するのもゲームを楽しむのも……嗜好の意味では一緒だけど……」


 何だかな。


「昔のお偉いさんはヒマだったのかな?」


 テレビゲームがないので、暇ではあったろうけども。


「月を見て、華を愛で、酒を飲み、詩を詠う……か」


 おかげで今があるわけだ。


 夜の月がぽっかり浮かぶ。


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