051 タクシー
朝食後にテレビ。
ゲームはお控え。
モビルスーツのアクションゲームがコマーシャルで流れた。
「おお!」
とイナフ。
碧眼がキラキラ輝く。
まるで聖女の浸る湖面の如し。
「お兄ちゃん!」
言わなくても分かるけどね。
「アレ買って!」
「じゃあ一緒に買いに行く?」
「外出して良いの?」
「一人ずつ。かつ僕が監督してるなら」
「デート!?」
「そうとってもいいかもね」
キラキラ。
幼女の笑顔の愛らしさよ。
そりゃ天元も突破する。
「他にもいろんなゲームソフトがあるんだけど……気に入った奴を全部買えば良いと思うよ。正直うちの資産は『いったい何に使うんだ?』ってレベルだし」
「自堕落を許すの?」
「こっちでは別に野盗も出ないしね」
「そなの?」
「安全安心設計国家ですので」
だから、と付け加える。
「好きに過ごして貰って構わないよ。殊更、働こうとか思わなくて良いから」
ていうか僕自身が働いていない。
ツナデだ。
「ただ、出来れば戦闘能力は維持しても欲しいけど」
「うん! じゃあそうする!」
ニカッと笑われた。
「デリシャス」
「何が?」
「イナフの笑顔が。ある意味でウーニャーと並ぶ邪気の無さ。君、一応年齢は積んでるんだよね? 幼女っぽい言葉遣いが端々……」
「エルフは成長遅いからね」
ソレで済む問題かなぁ。
少しの思索。
「じゃあ着替えて。服はあるから」
実際に用意はしていた。
ボーイッシュなコーデで纏める。
「外かぁ。やっぱりロボットが?」
「そ~ゆ~ところは文明音痴だよね」
南無三。
外出。
後にしばし歩いていると、
「こんな舗装された道路が延々続くの?」
「国交省もヒマじゃ無いでしょうし」
「もしかして全部切り拓いたの?」
どうなんだろう?
はてな。
「ま、過去はともあれ、今はこんな感じかな」
「野生動物は?」
「時折自動車に轢かれる」
ソレも事実。
また南無三。
「ううむ」
「乗ってみる?」
「乗れるの?」
「お金を払えばね」
「護衛任務は?」
「この国では成立しないよ」
どこと勘違いしてるかな?
「乗合馬車?」
「バスはそんな感じだけど」
グッと親指を立てる。
タクシーが止まった。
歩道に寄せ、自動で扉が開く。
「おお!」
またもキラキラ。
「乗って良いの?」
「幾らでもどうぞ」
そして僕も乗る。
行き先を告げると発進。
ブロロロロォ。
水平に景色が流れる。
「おお! おお!」
「お気に召した? イナフ」
「一応調べて確認はしたけど、見るのと乗るのとじゃ大違いだね。振動もそんなに無いし……これは舗装のおかげ?」
「車体の能力でもあるけどね」
今どき衝撃緩和は普遍の技術だ。
流れる対向車線を見届けながら、
「速いね」
そこを認識する。
「たしかにね」
異論は無い。
「スポーツカーはもっと速いんでしょ?」
「だね」
車について、そんな知識があるのは意外だった。
けどまぁスマホもあるし。
調べるだけなら、苦慮も無いものだ。
「欲しい?」
「値段見たけどアレは無理だよ。正直な話、買える財力をお兄ちゃんやお姉ちゃんが持っていても、実際に買うだけで胃が痛くなりそう」
「たしかに」
金貨が一枚で四万円前後なら、数千万円の買い物は向こうの世界でも破滅的だろう。
買えるか買えないかなら買えるんだけども。
用立てて貰う……という手段もある。
もっとも僕らにはまだ必要ないのも事実。
車自体は家に在るし、それは異世界ヒロインズも知っているんだけど。
「便利な世の中」
「否定はしない」
「これから向かう先にゲームがあるの?」
「ゲーム以外にもいっぱいある」
そんなところだしね。




