050 インディペンデンス
朝起きると、リリアはいなかった。
いやまぁ殊にいないことをどう思うでも、いたらいたでこっちの童貞がどんな苦悶をもらすのかも……やはり未知数なわけで。
「くあ」
欠伸をして、鍛錬。
これはイナフと一緒に。
ツナデは仕事らしい。
ラインでコメントが送られてきた。
「さて」
じゃあ。
「朝食はどうしよ?」
カップラーメンか。
そう思っていると、
「おや」
ダシの香り。
味噌の香り。
それらが僕の鼻孔をくすぐった。
味噌汁の匂い。
「あ、マサムネ様。おはようございます」
とは食堂でのフォトン。
ダイニング……とも呼ぶ。
「お茶淹れましょうか?」
「コーヒーでお願い」
「承りました」
穏やかに笑うフォトン。
「イナフは?」
「緑茶」
端的に答える。
「じゃあそうしますね」
そしてパタパタとキッチンへ。
コーヒーと緑茶が差し出された。
淹れ方もツナデに習ったらしい。
「で、どゆこと?」
「私たちで朝食を作っております」
「ツナデ抜きで?」
「基礎は教えて貰いましたし」
「納得」
コーヒーを飲む。
「監修はついていませんけど……」
「いいんじゃない?」
「ある意味で独立するに良い機会かと」
「だよね」
そこは同意。
「で、お味噌汁?」
「豆腐のですね。マサムネ様がお好きだとヒロイン勢で一致しまして。それとも余計でしたか? 確認をとらなかったのが不覚でしたけども……」
「大丈夫。大好きだから」
「ふえ」
赤面するフォトン。
苦笑。
「確かにフォトンも大好きだけどね」
「光栄です」
こちらこそ栄光です。
「さて」
朝食だ。
米を炊いて。
味噌汁を作って。
おかずを用意して。
並べられる。
「へぇ。レンジも使えるようになったんだ」
「ツナデちゃんのおかげね」
フィリアが皮肉っぽく述べた。
彼女も妹を師と仰いでいるそうで。
いいんだけどさ。
では、
「いただきます」
パンと一拍。
「……………………」
ジトッとヒロインが見つめてきた。
「…………なに?」
「いえ」
「その……」
「感想が」
「気になります」
フォトン、リリア、フィリア、ジャンヌの順だ。
「うまうま」
イナフは美味しそうに食べていた。
「こんな感じ」
とイナフを指差す。
「本当ですか?」
「実際美味しいよ。ダシの取り方も満足がいくし」
合わせ味噌も評価ポイント。
「良かったです」
「よかった……」
「良かったわね」
「ようございまして」
然程の事かね?
白米つやつや。
うーん。
デリシャス。
「これをツナデ抜きで作れたってことは……加当家は安泰だね」
ソレも虚しいけど。
「少しずつ出来る事を実現したいと思います」
「そのためには……マサムネが重要……」
「マサムネちゃんが美味しいと思える食事を作らないと」
「ですね。本当にその通りです」
四者四様に、述べ奉る。
「ウーニャー! ウーニャーも料理できた方が良い?」
「ゼッタイダメ」
「何で~?」
結果が知れている。
まずキッチンに立てない。
身長差は、この際、悪手だ。
「ウーニャー……」
残念そうなウーニャー。
「その内ね」
「ウーニャー」
インディペンデンスデイな朝食だった。




