049 眠りに落ちる前に
「えへへ……」
愛らしい声。
甘えるような声。
次いで艶やかな声だった。
「そんなに嬉しいかなぁ?」
僕としては首を傾げざるを得なくて。
風呂の後。
リリアが僕と添い寝したいと言ってきた。
承諾する僕。
別に否やも無いものだけど……なんとなくヒロインとして……あるいは女の子として、場合と状況に追い詰められているのかな?
そんな気もする。
「一緒に寝ましょう……」
「寝るだけでいいの?」
「寝るんですから……乙女冥利に尽きます……」
そっちかよ。
確かに僕はヘタレだから、その辺の押しには強いんだけども。
――言っておくけど、僕だって何も感じないわけじゃないよ?
言って詮方なきことなれど。
「マサムネは……格好良い……」
「恐縮です」
「だから捧げたい……」
「何を?」
「人生を……」
「あーっと」
重いよ。
こっちは元高校生だぞ。
結婚を前提に犯せってか。
「そこはリリアに任せるとして……僕以外でも三十五億人の男性が地球にはいるよ? 別に僕じゃ無くてもいいんじゃない? アイドルだってリリアを放っておかない」
某事務所とか。
言ってしまえば、異世界ヒロインズでアイドルグループ結成できるレベル。
何?
つまり僕がプロデューサー?
「ん」
またキス。
ただし軽めの。
「リリアは……マサムネが大好きだから……」
「正しいのかな……ソレ……?」
「大好き……」
リリアにしては強い言葉。
「本当に?」
「その素っ気なさも……加点対象……」
さいでっか。
「馬鹿言ってないで寝るよ」
「そうですね……」
吐息をつく。
眠りに落ちる、その前に。
「マサムネ……」
「何か?」
「リリアは……迷惑……?」
「有り得ない」
それは断じられる。
「証拠は……?」
「リリアの胸は柔らかい」
「そんな理由……」
重要なことだよ?
多分……。
「別に資格とか要らないんじゃない? 何にせよ、何が大事で、何を捨てるのかは、個人次第なんだし。別に僕がリリアに言えた義理じゃ無いけど……リリアが大切に思っていることを大切すれば良いと思うよ。」
「じゃあマサムネのことを……」
「大切なら大事にすれば良い」
「眠っているところに……」
「ソレは止めて」
いやマジで。
夢精よりタチが悪い。
「でも……そんなマサムネが……愛おしい……」
「恐悦至極に存じます」
「何時もソレばっかり……」
「他に語るべき言葉もありません由」
サラリと述べる。
「例えば……此処で自慰行為にふけったら……マサムネは引く……?」
それとも釣れるか?
そう聞いているのだろう。
「どうだろうね」
答えとしては曖昧模糊。
けれど本心でもあった。
「マサムネといるだけで……メスの部分が荒れ狂う……」
所詮乙女なんてそんな物。
そう言いたいのだろうか?
「リリアは欲求不満?」
「かも……しれない……」
「くあ」
欠伸を一つ。
「じゃあ抱き枕にする」
僕はギュッとリリアを抱きしめた。
「ふえぁわや……」
狼狽えるリリア。
「温かい」
「ふえ……」
「じゃあ寝るから。おかずでもなんでもご随意に」
そして人肌の温もりに包まれる。
ソレは決して嫌じゃ無かった。
むしろ安心する。
僕に恋する乙女の人肌。
それが温もりにならないのなら……その場合、世界の方が条理として間違っている……と言わざるを得ない。
「おやすみリリア」
「ふえぁ……」
眠気には逆らえない。
アドレナリンを調節して、徹夜も出来るけど、今は要らない。
だからリリアを抱いて寝る。
良い夢を見られそうだ。
ソワカ。




