045 ファミレス
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「二人です」
そんな感じで通された。
ファミレスだ。
ファミリーレストラン。
単純に物を食うならこれ以上も無い。
「ここ……なんですか……?」
リリアはせわしなく瞳孔を泳がせる。
「レストラン。食事処」
「こんな立派な場所が?」
「……………………」
そうか。
コレでも立派に映るのか。
そこら辺は、計算違い。
たしかにデザイン的には一般大衆向けながら、むしろ一般人を威圧しない様なファミリー向けの建築デザインの趣だけど、そこは論じないとして。
純粋な建築の常識と技術に異世界との開きがあるわけだ。
「はいコレお品書き」
メニューを渡す。
「ハンバーグ……って何ですか……?」
「小さな肉を混ぜて一塊にした物」
「ステーキ……は……?」
「大きい肉を焼いた物」
「パスタも……あるんですね……」
「それくらいはね」
「ドリンクバーは……」
「ドリンク飲み放題の権利」
他に言い様もない。
「凄いですね……」
然程かな?
「こんな高度な技術を……銅貨五枚レベルで……くださるんですか……? なにか落とし穴を……掘られているのでは……? 警戒して……然るべきです……」
「薄利多売ですから」
他に述べ様もない。
不安は分かるけど、此処は日本だ。
交通の高度化と、システムのデジタル化。
ついで第一次産業との連携および契約は、ここで高位のコストパフォーマンスを発揮する。
そんなわけで昼食。
僕は鳥天定食。
リリアはハンバーグ定食を頼んだ。
ドリンクバー付きで。
「どりんくばあ……」
「使い方を教えてあげる」
コーラやらソーダやらが並ぶ。
僕は無難にコーヒー。
リリアはホワイトソーダを選んだ。
「いいんでしょうか……?」
「伝票に乗せられてるから後ろ暗いことはないよ」
席に戻って、コーヒーを一口。
不味い。
ツナデのコーヒーが飲みたくなる。
「おお……」
ホワイトソーダを飲んで驚愕。
「シュワッて……します……」
炭酸だしね。
「こんな食事処が……あるんですね……」
「このレベルは一般だよ?」
「そう……なのですか……?」
「高級料理店はもうちょっと敷居が高い」
「ふわぁ……」
機会があれば、連れて行こう。
「お待たせしました」
とはウェイトレスさん。
鳥天定食とハンバーグ定食が届く。
ジュワーと響く鉄板の音よ。
ナイフとフォークの使い方は、異世界でも通用している。
「いただき……ます……」
「どうぞ」
僕も鳥天を食べる。
安定した味。
たしかに銅貨に間に合うクオリティではない。
ま、経済に文句を言っても始まらないけど。
「ハンバーグ……美味しいです……ハンバーグ……」
どうやら肉にも適応はあるらしい。
向こうじゃ魚よりメジャーだったしね。
けれどミンチ肉もなければハンバーグは作れないわけで。
「ある意味社会の勝利か」
文明限界の天元突破とも言える。
しばらく食事に夢中になる。
「はふ」
パンを食べ。
サラダを食べ。
スープを飲み。
ハンバーグを完食。
「これで銀貨に……届きませんか……」
驚くリリアに苦笑を一つ。
「美味しかった?」
「とても……」
僕らは食後のドリンクバー。
「本当に……飲み放題……なんですか……?」
「さして興味もないけどね」
――便利だから飲んでるだけ。
僕はそう述べた。
「……こんなサービスが……」
「あるところにはあるものだよ」
他に言い様もなかったけど。
「じゃデートはどうする?」
「ふえぁやわ……」
赤面。
愛らしい愛らしい。
リリアは小動物を扱うように可愛らしい反応を見せる。
マジで恋する五秒前……は嘘にしても……その愛らしさの反則の度合いは、天を突き抜け星座へと相成る燦然たる輝きに。
「じゃあ昼食も終わったし続行と言うことで」
「ふえぁやわ……」
狼狽える乙女の何と可愛いことか。
ぶっちゃけ世界を狙えるレベル。
「リリアはソレで良い?」
「構いません……」
その純情さは、あまりに尊い物だった。




