魔の国19
「おはようアンバー」
僕は気さくに声をかける。
「起き抜けに無粋だけどご機嫌いかが?」
「お前は……」
アンバーは僕を捉えて、
「……っ!」
絶句した後、
「貴様は……!」
と憎悪を露わにした。
僕はといえば、
「ああ、記憶は継続してるんだね。よかったよかった」
わざとらしく道化を演じてみせる。
さて……、
「状況はわかる?」
問う僕に、
「貴様がアイタイラに喧嘩を売ったことはな」
皮肉を返すアンバー。
ちなみに脅しにはなっていない。
僕はともあれフォトンは戦術級の魔術を持っているのだ。
魔の国と戦争しても勝ちきれるだろう。
いわんやたかが一貴族如きなんだというのか。
とまれ、
「強気はいいけど、虎の威をかる狐はもういないよ? 虎さん……」
そういうことだった。
取り巻きたちは気絶している。
アンバーだけが息を吹き返したのだ。
その事実に、
「……っ!」
絶句するアンバーだった。
「自業自得だけどね」
自己弁護する僕に、
「貴様は何をしたかわかっているのか!」
アンバーは強気に責め立てた。
「あ~」
と思考するふりをした後、
「証拠が残らないように肉体ごと滅却する必要があるかな?」
そう脅してみる。
「アイタイラの家が黙ってないぞ!」
「じゃあ試してみようか」
僕はそう告げると、
「…………」
想像創造をして、
「火を以て命ず。サンシャインスフィア」
世界宣言をする。
同時に右手を天に掲げる。
その右手の先に直径二十メートルを超える大きな火球が現れた。
規格外なフォトンのファイヤーボールには劣るものの僕とてこれくらいはできる。
もっとも魔術は本人から独立した現象であるから現実味があまりないけど。
「で?」
僕は意地悪く問う。
「アイタイラの家が何だって?」
それは単純な疑問だったけど、
「……っ!」
アンバーにとっては深刻な問題となった。
骨すら燃やし尽くす火球を前に、
「…………!」
狼狽することしきりだった。
当然生み出した火球は僕の想像創造通りに結果を出す。
つまり、
「……っ!」
炸裂することも爆発することもなく、ふつりと消失するのだった。
アンバーは失禁した。
パンツに染みが出来る。
恐怖故だろう。
悪い事をしたなぁと僕は思いました、まる。
冗談はともあれ、
「猿や犬や猫でさえ躾を教え込めばその通りに働くよ? 君は人間だろう?」
アンバーにそう問いかける僕。
「であるならば不遜にして傲岸な態度を改めることが出来るよね?」
「……ぐっ!」
とアンバーは呻く。
「取り巻きたちを引き連れてデカい顔するのを自重してくれると僕としても後々助かるんだけどな……」
「そんなのは俺の勝手だろう……!」
「じゃあ僕が君を殺すのも勝手だよね?」
そう言って天に右手をかざす僕。
「待て! 言い方が悪かった!」
百八十度意見を転換するアンバー。
結局はそういうことなのだ。
要するに結論ありきの問答である。
決定権はこっちにあり、それも有無を言わさない。
僕に殺されたくなかったら言う事を聞くしかないのである。
もっとも……それでも利休鼠の髪と瞳を持つ美少女たるリリアの安全を買うには足りないんだけどね。
「これからは謙虚に生きることだね。それが一番いいんだよ」
僕は上から目線でそう言ってやる。
「…………」
不満そうなアンバー。
「まぁそれでもアイタイラとしての矜持が許せないのだとしたらいつでも喧嘩を売っても結構だよ。挑戦する資格は誰にでもあるしね」
気楽に僕。
「…………」
結局アンバーは沈黙を守ったのだった。
こっちの意を汲んだことなど言われずとも理解できた。
力の勝利である。