038 パンケーキ
そんなわけで喫茶店。
「いらっしゃいませ」
とマスター。
平日なので人は少ない。
元々狭い店ではあれども。
「ここでパンケーキが食べられるんですか?」
「です」
そこは間違いない。
しかもふわふわの奴。
スマホで事前学習。
僕はお品書きを手にとった。
「飲み物は何が良い?」
「何があるの?」
「紅茶とコーヒーの種類が幾つか。あとはジュース」
「コーラとか?」
「喫茶店に来てまで頼む物じゃないけどね」
「じゃあ紅茶なら飲み慣れてるから」
「茶葉は?」
「よくわかんない」
じゃあアールグレイで。
僕はそう決めた。
僕がブレンドとオムライス。
フォトンには紅茶とパンケーキ。
しばらく待つ。
先に飲み物が差し出された。
一口。
「おお」
喫茶店の真髄を思い知らされるフォトン。
深緑の瞳が驚愕を映した。
「苦味が美味いですね」
「恐縮で」
穏やかにマスターは笑った。
ブレンドコーヒーも中々の物だ。
家のインスタントとは別物。
それからオムライスとパンケーキがやってきた。
スプーンですくって食べる僕。
「……………………」
フォトンはフォークでツンツンとパンケーキを刺していた。
食事のマナーはこっちとあっちの世界に齟齬はない。
箸もフォークもフォトンは使える。
ただふわふわのパンケーキは向こうにはないのだろう。
ツンツンとつつく度にフワッとモチッと形を変えるパンケーキに……なにか怯える子猫のように警戒しているフォトンだった。
オムライスを一口。
「食べないの?」
「食べるけど」
ナイフで切って、フォークで刺す。
メイプルシロップはかけてあった。
「はむ」
口に含むと目が輝いた。
「美味しい!」
「恐縮で」
マスターの苦笑い。
「ふわぁ。ふわぁ……!」
夢中でパンケーキをがっつくフォトンでした。
僕もオムライスを食べる。
ブレンドのコーヒーも絶品だ。
さすがの評価。
「甘くて美味しい」
さすがに異世界出身とはいえ女の子。
パンケーキは至福のようだ。
アイスクリームも乗っている。
アイス自体はコンビニの物で体験させているけど、パンケーキに乗っていれば……感動も一入といったところか。
「はぐはぐ」
食べ尽くすフォトン。
僕もオムライスを食べ終える。
しばし食後の茶の時間。
「美味しかったです」
「そりゃ重畳」
コーヒーを飲む。
「こちらの世界は凄いですね」
「ま~ね~」
美味しさの追求は、文明の余韻だ。
暇がないと成立しない。
納豆も食事事情の限界故らしいし。
閑話休題。
「それじゃどうする?」
「とは?」
「社会見学。何かみたい物ある?」
「あー、確かに色々ありますけど」
「服とか?」
「それは……ですね……」
「じゃあそうしよう」
「はあ」
ぼんやりとフォトン。
「お金は大丈夫で?」
「こっちでは問題ない」
「持って来た金貨も使えないし」
「あはは」
それは確かに。
けれど大丈夫。
そこは間違いない。
子どものお小遣いにしては少なくない額を渡して喫茶店を出る。
フォトンはレジが興味深かったらしい。
金銭取引に驚いていた。
「じゃ、行こっか」
「服屋?」
「というかショッピングモール」
「しょっぴんぐもおる?」
「さいです」
多分其処が一番揃っている。
「色々とね」
「色々……」




