037 フォトンとデート
「そげなわけで」
春も中頃。
今は昼。
「そろそろ女子たちも、こっちの世界が何なのか分かってきたと思います」
パソコンや新聞、スマホにテレビ。
何が常識で。
何が非常識か。
その辺の塩梅は掴めたはずだ。
「となると?」
フォトンが首を傾げる。
「少しずつ外の世界にも慣れて貰おうかと」
「わお」
とはイナフ。
「皆で?」
「一人ずつ」
全員は監督が追いつかない。
収拾が付かなくなるのは目に見えている。
「そげなわけで順番に外出を許可します。あくまで僕の監督付きで」
「お兄様。ツナデは?」
「別行動」
「何故?」
「女子たちとデートするときに邪魔だから」
「むぅ」
自覚はあるらしい。
異世界ヒロインズを一人一人街中案内するのに、ブラコンのツナデがいれば邪魔以外の何者でもない。
「というわけで生け贄第一号!」
「生け贄て……」
フィリアのツッコミは無視。
「フォトン。デートしよう」
「おお!」
深緑の瞳が煌めいた。
「デート!」
「デート」
そこは違えない。
「何か食べたい物ある?」
「そう言えば昼ですね」
さいです。
「じゃあパンケーキを!」
「了解」
頷く僕。
てなわけで、今日はフォトンの外出研修。
「緑の髪はまずいですか?」
「とは言わないけどね」
深緑の髪をお下げにしているフォトン。
服はネット通販で買っている。
準備は結構あっさりと。
デニムとシャツ。
春らしいジャケット。
帽子を被って髪を隠す。
もちろん全部じゃないけど、緑色に髪を染めている女の子の一人や二人はいても良いだろう。
若さ故の過ちと思ってもらえれば幸い。
「これがこっちでの服装なんですね」
スーツは向こうにもあったけどね。
あとは布関連の不足もあるだろう。
「なんなら服屋でも巡ってみる?」
「良いんですか?」
「幸いお金には困ってないし」
「マサムネ様大好き!」
「はっはっは」
良きに計らえ。
パタパタと手を振る。
「じゃあ行きますか」
「お兄様?」
ツナデの声。
プレッシャーを感じる。
おそらくツナデも自覚的だろう。
その程度は平然とやってのける。
別に法に抵触する物でもないのだけど。
「入れ込みすぎないように」
「ツナデもね」
「ぐ」
この程度の嘲弄は僕だってやってのける。
「じゃあ行きましょう!」
いざ行かん。
外の世界へ。
そんなわけで、僕とフォトンは外に出た。
ブロロォと音がする。
自動車が通り過ぎる。
「おお。車」
テレビでは見ただろう。
「飛び出し禁止ね」
「道路に?」
「そ」
交通マナーを学ぶのも、デートの一環だ。
信号機。
横断歩道。
右と左の確認。
交通事故と……その結果。
「ウーニャーは?」
「車に轢かれて死ぬタマでもないし」
虹色の鱗。
レインボースケイルの持ち主だ。
多分十トントラックに轢かれても死なないだろう。
「それは納得」
するんだ……。
いやまぁ先にソレを言った僕に驚く資格があるのかって話だけども。
「ま、いいか」
歩道を歩きながら目的地へ。
「パンケーキが食べたいんだよね?」
「うん!」
それは華やかな笑顔だった。




