034 その本当の意味が
「アウト?」
チンピラさんの御言葉。
「ナイフ。銃刀法違反」
基本則だよ~?
「これは躾の範疇だろう?」
「銃刀法違反の時点で停学は固いね」
サラリと無視して言葉を綴る。
「さて、ここから顔も知らない君の行動による結果を考察してみよう」
ナイフはあまりに凶暴だ。
すでに図書館の衆人環視はスマホのカメラを僕らに向けている。
「僕が少しでも血を流せば傷害罪が適応される。これにていっぱしの犯罪者だ。退学も見えるでしょ?」
「……………………」
「出血多量なら刑事責任の如何にもなる。裁判に掛けられる?」
「……………………」
「動脈を刺せば出血多量でショック症状を起こす。君の家族が補償金を支払って、一家離散もありうる」
「……………………」
「そして最終段階。肺や心臓を刺されれば僕だって死ぬ。もちろん内申点は滅茶苦茶だし、内申点じゃなくても滅茶苦茶だ。殺人罪で少年院行き。罪を償って解放されても近所の住民や自称正義の味方に後ろ指さされて過ごす羽目になる。こっちも家族には有り得ない負担が掛かる。ちなみに手加減も温情も我が家にはないよ?」
「……それで?」
「それでも刺すのかって話」
他に何がある。
「理性を求めるや切ではあるけど、君の決断如何では僕も覚悟を決めよう。けれど刺してから許してください……は通用しないよ。刑法に則って処罰して貰う」
「それがお前のチョーシくれてる根幹か?」
「刺した瞬間、君の学生生活は終わる。酷くなると家族にも迷惑が掛かり、親は賠償金で首を吊る。もちろん戻ってくるはずもない。その覚悟を持ってナイフを握ってる?」
「刺せないとでも?」
「脅してはいないよ。むしろ冷静になるように促している」
「――――――――」
「一時の感情と、その後の人生と、秤に掛けて前者に傾くならソレも良いけどね。新聞には載るんじゃない?」
「舐めてるな。うん。間違いなくお前は舐めてる」
「それがどうした」
銀河最強の言葉を放つ。
チンピラさんの血が沸騰した。
脳髄に血が巡り、殺意が膨れあがる。
あ。
これヤバい奴だ。
とはいえ今更「挑発じゃない」も通用しないだろう。
ナイフを持った男子の手が振り下ろされる。
「――――――――」
「――――――――」
悲鳴。
歓声。
盛り上がり。
僕の手が切り裂かれ、出血する。
そのシーンは衆人環視のスマホにしっかりと記録された。
そのままナイフの刃を握って、押し留める。
「殺す! 殺す! 殺す!」
ギラギラと稚拙に殺気立ったチンピラさん。
「てなわけで、ツナデの合コンへの参加は諦めて」
その彼女は百十番をしていた。
仕事のスマートなこと。
警察が介入して、事態は大事に。
僕は浅く手を切っただけ。
縫合も必要なし。
出血量だけは多かったので、専属医に包帯を巻いて貰った。
――なんで図書館で勉強していたら刑事事件になるんだろう?
そこが少し疑問。
「南無八幡大菩薩。いや、まぁ、色々と青春の光と影には群像劇が付き物ではあるけど……ナイフで怪我するのは若さ故の過ちなのだろうか?」
「ウーニャー。誰にやられたの?」
「マサムネちゃん? 誰にやられたのかしら?」
「マサムネ様の御身を傷つけたのは?」
黙秘で。
ウーニャーとフィリアとジャンヌに教えると、チンピラさんの命がない。
それも犯罪を立件できない処方で。
「明日の朝刊に載るから。どちらにせよ外出不許可だけどね」
「ウーニャー」
「ふむ」
「むぅ」
不満そうなお三方。
場合によっては戦略レベルだ。
自重して貰うくらいで丁度良い。
「ではお兄様。ツナデはコレで」
「待った」
差し止める。
「何しに行くの?」
「報復です」
そりゃそう言うよね。
「大丈夫です。お兄様に迷惑はかけません」
大体予測してるけど、
「どうやって?」
「狙撃です」
ガシャコン。
スナイパーライフルをポンプアクションするツナデでした。
あの場で遁術を使わなかったのは明敏だけど、どこまで行ってもツナデらしい。
「政治的にも穏便に済ませますので心丈夫で」
「ダメです」
「お兄様を傷つけたんですよ? 死で償って貰わないと」
「なんでそう僕関連になると殺気立つかな?」
「お兄様が大事ですから」
「じゃあ包帯巻いてるから僕の身体を洗って。一緒にお風呂に入ろう。その殺気もシャワーで流しちゃいなさい」
「添い寝……」
「してあげますとも」
「ウーニャーも」
「お姉さんも」
「私も」
自重してね。
規格外戦力の皆様方。




