033 ナイフを持つ
「マジ有り得ないんだけど。あっしら友達じゃん?」
「ええ。友情万歳ですね」
「ならなんで冷たく出来るわけ? 遊ぼうって言ってるだけし」
「だから都合が合えばと言っています」
今は都合が悪い。
元より、僕との関係修復が最優先らしい。
たしかにフィリアとは熱烈な夜を過ごしはしましたけども……その責任の帰結は僕に当てられるもので?
「チョーシ乗ってる?」
「いえ、恐縮しています」
「じゃあお願い聞いてよ。そしたら許してあげる」
「つ つ し ん で ごめんなさい」
笑顔絶やさじ。
鉄壁スマイルで、友人の好意(?)を無下にする妹様。
無念。
「ちょーアッコちゃん。おまた~」
また人間が増えた。
こっちは男三人だ。
プチ合コンって言ってたね。
よりによって図書館で待ち合わせですか。
「あれ? マサムネじゃん? ウケる~」
思考回路も口調もギャルと同種らしい。
何が受けるのか?
「誰さん?」
「知り合い?」
他の男子二人は、僕を知らないらしい。
別の学校なのだろう。
もっとも……僕は僕を知っているチャラ男の顔面すら忘却どころかデータ消去していた。
一々憶えていられない……っていうのが正直な感想。
関わっても面倒なので、勉強に精を出す。
「なに勉強してんの? 学校辞めたんだろ?」
「ですね」
ノートに数式を書き表しながら答える。
「ちょちょちょ。なにそのクールな感じ? キャラづけ?」
そっちの口調の方が、よほどキャラづけが酷い気もするんですけど……多分此処で指摘しても反感を買うだけだ。
「それがさ~。聞いてよ剛。ツナデ誘ったけどフラれちゃって~」
「ツナデさん来ないの? こんなダメ兄貴と一緒に居てもつまんないっしょ?」
「どうしょうね」
「あーそれだと男子が一人足りないか。メンツ集めるし。ちょっと待ってて」
「いえ、自重しますので」
「えー、つまんねー事言わないでよ。ツナデさん居た方が盛り上がるっしょ?」
「何ソレ~。事実だけどあっしらのこと蔑ろ~」
「そんなつもりじゃねえって。ていうかアッコたちが誘ってんだろ?」
「そうなんだけど~」
「無味無臭って言うか~」
「素っ気ない感じ~? 冷たいよね~」
「ちょっとお兄さんからも何か言ってやってよ。自分といるより俺らといる方が楽しいよって。それともなに? シスコンだったりするの?」
むしろ妹がブラコンなんだけども。
「説得はしないけど、そっちが説得する分には不干渉」
「お兄様!」
「この手合いは絡まれるとウザい」
ピシッと空間がひび割れた。
「なにそれ? 何言った? おいおいマサムネくん? 何言った?」
「この手合いは絡まれるとウザい」
一字一句、間違いなく。
「もしかしてチョーシ乗ってる? 何か学校休んでる間に勘違いしちゃった?」
「まずもって貴方は誰ですか……が正直なところ」
「謝れ」
「誰に?」
「俺にだ」
「では何故?」
「チョーシこいて不愉快にさせたからだ」
「こっちは勉強の邪魔をされてるんですが」
「まじお前みたいな奴がチョーシこくとウザいよな」
「じゃあお互いにウザいと言うことで不干渉にて」
「おい」
金属光が煌めいた。
ナイフ。
バタフライナイフが飛び出した。
「躾がなってねーな。まじ勘違いしちゃってる」
「人に言えた義理かなぁ」
ナイフ出す方がどうかと思うけど。
「はったりで脅されても返す物が無いんですけど」
「アッコちゃん、ちょっと野暮用。ちょち待って」
「うん。わかる~。ウザいよね兄貴さん」
「……………………」
ツナデの機嫌が底冷えするように悪化していく。
それも二次関数のように。
「それじゃマサムネちゃ~ん?」
「何か?」
「倍返しだ。土下座しろ」
「公衆の面前で?」
「楽しいだろ?」
「誰が?」
「もちろんマサムネちゃんが」
「そんな趣味はないんだけど」
「こっちは不愉快なんだよね。土下座して貰わないと割に合わないって言うか~」
「薄っぺらいプライドで」
「殺すぞ? マジで」
「だから絡まないでよ。ウザい。互いに不干渉で良いでしょ?」
「へー?」
道化の様に口調が明るくなる。
チラチラとナイフが瞬く。
「大物気取り?」
「矮小なりし身為れば」
「ちょっとわかんないなぁ。で、土下座するのしないの」
勉強の邪魔なんだけど。
「はぁ」
嘆息一つ。
「社会的にアウトって分かってる?」
一応説得を試みる。
和解には言葉が必要だ。
個人も国家もコレは変わらない。




