031 妹・ザ・嫉妬
「……………………」
むぐむぐ。
今日のお米は少し固い。
誰かさんの機嫌の如く。
「美味しいわね」
別の意味でね。
フィリアのご飯の感想に、心中そんな返し。
「(お兄様の浮気者……)」
ボソリと呟かれた。
浮気も何も恋人も妻もいないので成立しようがないんだけども、ツナデにとっては明確に浮気と相成るらしい。
何故よ?
胸元のはだけたパジャマ姿のフィリアと添い寝している僕に不信感を覚えた御様子で、さっきから半眼で睨まれていた。
「ツナデの御飯は美味しいね」
「…………きょうしゅくです」
棒読み。
ま、その内、熱も収まるでしょ。
こちらが波長を合わせるいわれもない。
「マサムネ様?」
「はいはい」
「今日は何をなされますか?」
「図書館で勉強」
他にやることもないし。
仕事はツナデの領分だ。
「じゃあツナデも一緒します」
「きょうしゅくだねー」
「意趣返しですか?」
「そんなつもりはないけど自覚でもあるの?」
「ぐ」
嫉妬する妹の愛らしさよ。
「ウーニャー! ウーニャーも!」
「構わないけどね」
虹色の髪は流石にやり過ぎにしても。
「お兄様はウーニャーに優しいですよね」
「幼子だし」
「ロリスキー?」
「フィリアのおっぱいに嫉妬してたんじゃないの?」
「ぐ」
ツナデが呻いて、
「いやん」
フィリアがクネクネ。
殆どハーレム状態だね。
今更だけど。
屋敷内にこれだけ美少女を集めれば。
「ウーニャー」
「というわけで思い思いにお過ごしください」
「外出は?」
「外の常識はもうちょっと屋敷で補って」
「むにゃ」
イナフの不満げ。
僕は食事を終えると薬効煙に火を点けた。
くわえて肺に煙を送り込む。
一巡してフーッと吐く。
「ツナデは大学行かないの?」
「諜報活動に有利になる講義もありませんし」
「ある方が凄いけどね」
一部在るけどそっちより家の方が優れている。
「いっそのこと忍の家系を集めて諜報機関にするとか」
「足並み揃いますか?」
「妥協と折衷の重ね合わせ」
「……………………」
「ですよねー」
だいたい言いたいことは分かった。
「マサムネちゃんはスパイなの?」
「概ね否定も能わず」
「ハニートラップ?」
「にしては凡庸ですな」
「格好良いわよ? 夜も魅惑的だったし」
「へー」
ツナデの半眼。
「何か文句があるなら聞くけど? お客様コールセンターは二十四時間対応可能となってございます」
「ツナデとも魅惑の夜を」
「君ね」
「何か?」
「いいんだけど」
「良くないですよ」
「良くない……」
「良くないよ!」
「ウーニャー」
「良くないわねぇ」
「良くないです」
袋叩きだった。
「おモテになることで」
「まこと以て光栄の至り」
結果論としてはハーレムなんだけど、この経緯……場合で考える因果の糸は、少し絡まって意味不明。
――僕は然程の男性ではありませんよ?
「これだからお兄ちゃんは」
「マサムネ様らしいですけどね」
「誠実……ですし……」
「お姉さんにも罪な人」
「火が点きそうですよね」
好き勝手言ってくれる。
「お兄様のジゴロ」
「今気付いたの?」
異世界に居た頃からジゴロだった気がするんだけど。
もちろん僕とて自覚はしても認識はあまり追いついてもいない。
先述の如く、然程の存在でもないのだ。
じゃあ何故美少女の恋心を掴んでいるのか?
解明できればシェイクスピアは駄作に落ちる。
「無念なり」
「シェイクスピアは面白かったよ?」
ウーニャーは読破したらしい。
いやん。
布教の甲斐があったというものだ。




