魔の国18
「まぁやりもやったりという有様ですね」
フォトンは事実を客観的に捉えた。
仮想斬撃を受けてショック状態となったアンバーと、首を切られて右往左往するアンバーの取り巻きたちの光景はある種のショッキング映像だ。
腹時計はお昼。
食欲を減退させる絵柄なのは間違いない。
「自己防衛が通じるかな?」
「普通なら通じそうですけど敵対したのがアンバー……魔の国の筆頭貴族アイタイラの跡継ぎというだけで極刑もやむなしです」
その通りなのだろう。
現に魔術訓練場である国際魔術学院のグラウンドの一つであるこの場所には、幾人もの視線があって、
「やれやれ」
惜しみなく僕とフォトンと十把一絡げに注がれていた。
さて、
「どうしようか?」
問う僕に、
「どうしようも何も……」
困惑した様子でフォトン。
「バミューダ陛下に温情を賜るか……素早く魔の国から逃げるか……二つに一つだと思いますけど……」
「まー、そーだろーねー」
感情を込めずに同意する。
実際のところ、
「…………」
アイタイラという貴族とやらがどれだけの権力を持っているのかも僕は把握できてはいないのである。
ならばいたずらに焦ってもしょうがない。
ところで、
「フォトン……」
僕はフォトンに問う。
「何です?」
「こっちの世界でも殺人は罪になるの?」
「当然です」
当然かぁ。
「兵士が戦争で殺された場合は?」
「それは……」
言い難そうにフォトンは口ごもる。
ならないのだろう。
それくらいは読み取れる。
「しかして」
とフォトンは抗する。
「アイタイラの血統を害したとなれば大罪ですよ」
あっそ。
「早く逃げなければ」
「まぁやっちゃったものはしょうがないし今更そろばん弾かなくてもいいんじゃないかと僕は思うね」
「正気ですか?」
ごもっともだけど、
「正気だよ」
そう返す他ない。
「そもそも聞くけどさ」
「何でしょう?」
「なんで殺人は罪なんだと思う?」
「は?」
ポカンとするフォトン。
やれやれ。
「つまり殺人の罪の在処を聞いているんだけど……」
「殺人は罪でしょう?」
「何を以て罪過と為すのさ?」
「それは……」
「それは?」
「それは……」
フォトンは答えを出せないようであった。
代わりに僕が言う。
「それはね。取り返しがつかないからだと思うんだ」
「取り返し……」
「取り返し」
首肯する。
「つまり人を生体機械に見立てるなら劣化した箇所があるから動かなくなるだけで、カラクリさえ修復できるなら人だって生き返るんじゃないかと僕は思う。なによりソレを可能とする術者が僕の目の前にいる」
「私の無限復元で快癒させろっていうことですか?」
「アンバーだけをね」
「取り巻きたちは?」
「無視でいいでしょ。人の全てが平等だ……なんていう不平等を僕は信じたことは一瞬足りとてないよ」
「マサムネ様がそう云うのなら異論はありませんけど……」
「うん。アンバーだけを御願い」
僕はフォトンを頼る。
「では……」
といってフォトンは仮想斬撃にて気絶したアンバーに触れる。
それだけでアンバーの体は癒されて復活を遂げるのだった。
「ん……」
と呻き、
「んん……」
と吐息を漏らし。
「んんん……?」
と疑問を以て、
「……?」
アンバーは目を見開く。
元に戻ったのだ。
それは衆人環視にざわめきを与えた。
無限復元の一端に触れたのだ。
当然だろう。
そして、
「あれ……俺は……」
と現実にピントを合わせようとするアンバーだった。