028 玉子かけ御飯
「ふおおお!」
ガツガツ。
ハグハグ。
モグモグ。
フィリアは感動したようだ。
白米に卵をのっけて生醤油で味付け。
卵と御飯をかき混ぜて、玉子かけ御飯のできあがり。
QED。
「美味しいですね!」
「それは重畳」
僕はサラリと述べた。
「こんな単純にして奥の深い料理があるとは……! 米も玉子も確かに向こうの世界には存在しましたが、何故この発想に至らなかったのか。生醤油。これが決定づけています! 此方の世界の調味料は万物に適合しすぎですね!」
フィリアの感動は大した物だった。
「然程かな?」
僕の疑問。
ハグリ。
モグモグ。
「ウーニャー?」
ウーニャーの疑問。
「美味しいですね」
フォトンが述べ、
「あう……美味しい……」
リリアが感嘆とし、
「うまうま」
イナフが夢中になり、
「本当に世界は良く出来ています」
ジャンヌが論評した。
そんなわけで玉子かけ御飯を食べ尽くす僕ら。
「ソッチは大丈夫?」
ツナデにメッセを送る。
「一応は」
メッセが帰ってくる。
「そちらの食事は?」
「玉子かけ御飯」
沈黙。
「本当に?」
「フィリアの希望で」
「はあ。フィリアが」
なんだか現実味がない。
言外にそう言っていた。
「ツナデは食事とってる?」
「大丈夫ですよ」
まぁそうなんだろう。
「毒も仕込まれていませんし」
「そりゃそうだ」
政治家の密会。
特秘事項だ。
料亭側も気を遣う。
所謂、
「見ざる」
「聞かざる」
「言わざる」
を徹底した料亭らしい。
「そんなところで食事して、胃が痛くならない?」
「ツナデは然程でも。問題は相手方ですね」
「詳しくは聞かないよ」
「ラインで話すことでもないでしょう」
ご尤も。
「それでは玉子かけ御飯を」
「楽しむよ」
そんな感じのライン。
「おおおおお」
「ふおおおお」
フィリアとイナフが絶好調の御様子。
いやいいんだけどさ。
「これは世界共通なんですか?」
ジャンヌが問うた。
「日本特有」
「にほん……」
「この国ね」
「凄いですね」
「島国だから業は深いね」
「ふむふむ」
スマホで色々調べたのだろう。
この国の裕福性についてはご理解頂ける物……と、思って貰えれば……こっちとしても助かるのだけど。
「マサムネ様は誠実なのですね」
「皮肉屋だよ」
其処は誓って本当。
「けれど人を傷つける皮肉は言いません」
「僕もよく見られたいからね」
「そんなところが好印象」
「恐縮で良いのかな?」
「玉子かけ御飯。良く出来ています」
「文明の勝利」
「本当に?」
「他に何があるのさ?」
「マサムネ様の知識故と申しますか」
「この程度の料理は日本人なら誰でも知ってる」
それも事実だ。
「だから日本人のマサムネ様は貴重なのでは? 少なくとも右も左もわからない私たちの導き手としては。実際にウーニャー様の外出にも尽力されておられますし、私たちも、その内……外に連れ出してくれるのでは?」
「そうかも知れないけど」
否定は出来ない。
けど易々と肯定も出来ない。
「楽しみにしています。マサムネ様の故郷の姿を」
「まぁそれなりにね」
誤魔化す以外に、対処は無かった。
玉子かけ御飯をもぐもぐ。
甘味と辛みのハーモニー。
単純にして完成された味。
其処にはぐうの音も出ない。
うーむ。
デリシャス。
南無八幡大菩薩。




