024 朝食の一幕
「これがこうで」
「それがそうで」
「あれがああで」
朝食を彼女たちが作っていた。
キッチンの扱いも慣れてきた頃合いで、炊飯器とか電子レンジとかオーブンなどもお使いになる様な状況らしい。
今日は白米とアジの開き、メカブに大根おろしの味噌汁とのこと。
で、「いただきます」と相成り、
「お。美味しい」
端的に賞賛の言葉が出た。
「どれがです?」
「全部」
白米に海苔を巻いて口に放る。
鮮烈な海苔の香りが口を楽しませた。
アジの開きも米に合う。
「メカブ。美味しい」
夷の国で海藻を食べたけど、それにしてもメカブはマストチョイス。
うーん。
デリシャス。
「アジの開きを焼いたのがフィリアで、大根おろしはフォトンとリリアの合作ですよ。一応監督はしましたけど……ツナデの意見も要らなかったようで」
「グッジョブ」
「マサムネ様」
「マサムネ……」
「マサムネちゃん」
かしまし娘は感極まった御様子だった。
「お兄様の御飯はツナデが作って差し上げたいのですけど」
「そこは妥協をとって」
「はい」
物わかりのいい。
ツナデにしてはちょっと珍しい。
「仕事の方は大丈夫?」
「今日はちょっと政治家さんの護衛任務がありますね」
「護衛」
「別に何がどうのでもないんですけど……ちょっと外国の諜報機関に聞かれたら不味いことを話すそうで。後ろ暗くない話だけをしてほしいものですけど」
全くだ。
別に清廉潔白で政治家は成り立たないだろうけど、なんか幻想が壊れる。
たしかにそれならオーラは必要か。
「もぐもぐ」
アジの開きは美味しい。
焼き加減も中々のもの。
「その……ツナデは……何をしているので……?」
リリアの疑問。
「諜報活動?」
自分でも正答とは思っていないらしい。
クエスチョンマークが良い証拠。
「諜報活動……」
治安維持ではあるね。
その辺は家業だし。
PSIAへの協力なんて端的に言ってその範疇。
暗殺。
密偵。
侵入。
確保。
まぁそこら辺はともあれ、カウンターインテリジェンスとしては、日本の政治家に益のある立ち回りは必要だ。
たまにCIAやMI6からも要請が来るけども。
「頼りたかったら言うんだよ?」
「ええ、そうします」
さらりと答えるツナデさん。
大根おろしの味噌汁は僕の大好物だ。
大根をおろそうと考えた輩に敬意を表する。
「お兄様に負担を掛けさせるわけにはいかない……って考えてる?」
「よく分かりますね」
「ツナデを何年見た来たと思ってるの」
「でもツナデは卑怯者ですから」
それが喉の小骨か。
「だから決意したんでしょ?」
「……………………」
苦虫を……な顔。
悔恨。
苦渋。
表現するならそんなところ。
「別に僕は気にしてないんだけど……ツナデが重荷を背負っているのはなんか嫌だ。別に他人事で済ませられる話ではあるよ? でも血は繋がっていなくても……ツナデは僕の愛妹だからさ」
「ジゴロです……お兄様は」
「今頃気付いたの?」
「あう……」
惚れているのは認めるらしい。
「とにかく朝食です。味わって食べてください」
「はいはい」
強引に話を終わらせるのは、まぁ多感な乙女ならしょうがないこと。
そんなわけでメカブを一口。
「うむ。美味し」
実際にね。
「ツナデお姉ちゃん?」
「はいはい」
イナフの問いにサラリと答える。
「コーラ飲みたい」
「食後にお願いします」
「わかったー」
頷くイナフ。
多分こいつが一番こっちの世界を謳歌している。
スマホとゲームと清涼飲料水を好む。
悪いことじゃない。
むしろ今までの業を考えれば、人生の謳歌は必要だろう。
アジの開きをアグリ。
白米をかき込む。
やっぱり食事事情は日本の方が性に合ってるかな?
米。
味噌。
醤油。
ビバ日本食。




