021 春先のジャケット
「春かぁ」
すこし桜が咲いていたり。
僕は一人で桜並木を歩いていた。
染井吉野。
普遍的な桜だ。
けれどもこれが日本の風靡。
僕も例外じゃない。
「ウーニャー!」
ウーニャーは頭に乗っかっていた。
遁術で見えなくしているけれど。
五百メートル範囲だ。
「綺麗だね」
「向こうにも桜の国はあったけどね」
「良い思い出」
「そりゃ重畳」
僕としても苦笑するほか無い。
春用のジャケットを翻し、歩く。
花見をしている人たちも居る。
酒を飲むには絶好の機会なのだろう。
僕は薬効煙を取り出すと、くわえて火を点ける。
スーッと吸って、フーッと吐く。
精神安定剤は中々のものだ。
気持ちが落ち着く。
「ウーニャー」
「何か?」
「大丈夫なの? パパ」
「薬効煙?」
「ウーニャー!」
「大丈夫なんじゃない?」
別段法律は破ってないし。
「ウーニャー……」
「大丈夫だって」
僕は苦笑する。
フーッと煙を吐いた。
「良い匂い」
「ハーブだしね」
一応手仕事の延長線上だ。
量産できる類じゃない。
それにしても、
「…………」
フーッと主流煙を吐く。
「月と桜か」
ここ最近で目にするのは。
「ウーニャーは桜好き?」
「ウーニャー! 大好き!」
「それは良かった」
「パパは?」
「好きだよ」
「ウーニャー!」
よしよし。
「花鳥風月。雪月花。月見で一杯、花見で一杯。かように日本人は月と花を愛でるものなんだから……業が深いよね」
「それを素敵と言うんじゃない?」
「そうかもね」
ウーニャーの言葉には異論も無い。
「結局月と花か。花は桜。すぐに散る物。散ればこそ、いとど桜はめでたけれ、憂き世になにか久しかるべき……か」
「ウーニャー?」
「何でも無いよ」
「ウーニャー!」
ま、ウーニャーならそんな感じだよね。
「桜か」
「ウーニャー?」
「一つの風流だよね」
「う~にゃ~」
納得はされている御様子。
電子音が鳴った。
フォトンからだ。
「まだ帰りませんか?」
そんなコメント。
中々に使いこなしている御様子で。
「もうちょっと」
歩きスマホで返す。
「お土産が必要かな?」
ウーニャーが頭に乗っているので、首は傾げ能わざるも。
なんとなくそんな気分。
「ウーニャーはどう思う?」
「ウーニャー……。まぁプレゼントは喜ぶと思うよ? ウーニャーもパパに何か貰ったら嬉しいし。フォトンたちもそれを期待してるんじゃないかな?」
「ですね」
ではその通りに。
「ウーニャー?」
「ケーキでも買って帰ろうかと」
「ケーキ!」
ケーキ屋さんに突入。
一応ウーニャーはインビジブル。
今更っちゃー今更だけど。
「えーと」
適当に人数分買う。
「ウーニャー」
「何か?」
「パパって結構良心的」
「喜んで貰えるのは徳だしね」
「そんなパパが好きだよ?」
「恐悦至極」
「本当なのに」
「知ってる」
「ウーニャー!」
尻尾ペシペシ。
それがどこか心地よかった。
いやまぁ、
「ロリコンです」
とは言えなかったけども。




