020 てなわけでスマホ
「はい」
ウーニャー以外の全員に渡す。
「これは……スマホでしたっけ?」
全員の代弁としてフォトンが問う。
「ええ」
ツナデが頷いた。
「なにかしらの連絡手段は、この現代文明に於いて必要です。別に無いなら無いでも良いんですけど、困ったことがあればすぐに聞けるのも情報化社会のメリットと考えます。そのためにはスマホが一番有用とも言えましょうぞ」
「えーと……お金は……?」
リリアが遠慮がちに。
「殊更に困ってはおりません」
ぶっちゃけツナデの仕事はエグい金額が入ってくる。
もちのろんで口止め料だ。
基本的に、忍の家系は日本における諜報機関の代行が目的。
忍者と呼ばれていた頃からこの性質は変わっていない。
御庭番も非公式ながら存在する。
それは加当の家も同じだ。
今のところ血で手に染める事態にはなっていない物の、必要とあらば決断も已む無し。
ことツナデに於いては、
「殺しは無し」
と、仕事上、契約は交している。
なので、仮に殺しが必要になれば別の一族が担当するだろう。
閑話休題。
「そんなわけで、スマホに慣れてください。使い方は各々に任せます」
単純な英語能力も異世界人は持ち合わせている。
であれば時間さえあれば問題は解決するだろう。
「これが電話?」
「そう……なのでしょうか……?」
「ふぅん?」
「面白い物が多いわね。この世界は」
「ですね」
四者四様に驚いている御様子で。
「まず真っ先にラインについてですけど――」
そんなわけで、スマホの講義が開催された。
僕はキッチンに立って湯を沸かす。
それからコーヒーを淹れた。
インスタントだ。
先の喫茶店とは比べものにならないけど、別に機微を察する舌でもない。
すなおにコーヒーの香りが心地よかった。
電子音が鳴る。
スマホだ。
「コーヒー美味しい?」
そんな文面。
イナフからだ。
「まぁまぁね」
そんな返信。
既読が付く。
「おお!」
リビングからイナフの驚きが聞こえてきた。
電子音が立て続けに送られる。
全員からだ。
「困らせて楽しいですか」
とりえあず掣肘のために皮肉を放つ。
「すごいねコレ!」
イナフは感激しているようで。
「ウーニャー? ウーニャーは?」
僕の頭の上に乗っているドラゴンさんの御言葉。
「必要ないでしょ」
「ウーニャー」
尻尾で僕の後頭部をペシペシ。
さて、
「ふむ」
コーヒーを飲む。
スマホを弄って、ネットに。
ラインと電話。
後はメールか。
ついでにグダグダをインストールするとイナフが喜んだ。
ガチャは悪い文明だ。
別に構わない案件ではあるけども。
「~~~~」
くるくると指先に乗せたスマホを回す。
「ウーニャー。器用だね」
意味ないけどね。
そんな感じでコーヒーを飲む。
「お兄ちゃん」
とはイナフ。
ダイニングに顔を出した。
「コレで何時でも連絡取れるんだよね?」
「まぁ場合によるけど」
「一緒にグダグダしよう!」
「あんまり興味も引かれないかな」
「えー」
何故不満そうよ。
「衣嚢怪物はいいの?」
「あっちもプレイするよ?」
さいでっか。
「色々慣れてきたし」
「そりゃようござんした」
「お兄ちゃんの楽しい事って何?」
「何だろね?」
あまりよく考えた事も無い。
「ゲームもスマホも淡泊だよね?」
「読書かな?」
「あー、たしかに」
イナフはうんうんと納得していた。
「シェイクスピアはウーニャーも読んだよ?」
ちなみに面白かったらしい。
「ウーニャーの気質には合ったってことだね。たしかにあれは事前知識が必要のない文面ではあったけど……それにしても捻くれ具合は五十歩百歩か」
「ウーニャー?」
「お兄ちゃんとゲームしたい」
「その辺の嗜好を持ってないんだよね」
「うー」
「ま、その内ね」
「約束だよ?」
口頭契約で。