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魔の国17

「助けて……くれて……ありがと……ございます……」


「気にしなくていいよ。ええと……リリアって呼んでいいかな」


「はい……」


「僕はマサムネ。よろしくリリア」


 そう言って僕は体育座りをして丸くなっているリリアに手を差し伸べる。


「よろしく……マサムネ……」


 おずおずと僕の手を取るリリア。


 そして僕はリリアの手をギュッと握ると、軽度の絶望から引きずり出して立ち上がらせる。


「うん。女の子にはやっぱり塞ぎこむ姿なんて似合わない」


 そう言って、それから想像創造をし、


「闇を以て命ず。空間破却」


 と世界宣言をしてリリアだけをクランゼの研究室まで飛ばす。


 空間破却……つまるところ瞬間移動だ。


「な……!」


 と驚いたのはフォトン。


「空間破却って……!」


 リリアとボンボンの不幸に割り込んだ際にも使ったでしょ?


 僕がそう言うと、


「空間破却って自分の転移に指定した相手を巻き込む魔術ですよ!」


「見解の相違だね」


 僕は困ったように……事実困って頬を掻く。


 なにゆえフォトンが驚いているのか理解できない。


「自身を蔑にして他者だけを瞬間移動に適応させるなんて寡聞にして聞いたことがありませんよ!」


「今目の前で見たじゃん」


「だから驚愕極まっているんです!」


 フォトンは叫ぶ。


「高位属性である闇の魔術をウィッチステッキもなくあっさりと使うあなたは……マサムネ様は何者です!?」


「僕を召喚した君がわざわざ問うのかいソレを?」


 やれやれだ。


「クランゼだって自身の空間破却に他人を巻き込むことはできても他人だけを転移なんて有り得ませんよ!」


「まぁ元来日本人は物真似が上手だからね」


「にほんじん?」


「僕の世界の僕の国の住人の事」


「マサムネ様の世界の……」


 そ。


 僕は頷く。


「とかく日本人って奴は勤勉で手先が器用で物真似が上手いのさ」


 肩をすくめてみせる。


「更に言えば奴隷でもないのに人に従って働くことに疑問を覚えない性格でね。おかげで戦後日本は急成長を遂げたわけだけど……」


 ゆっくりと言葉を続ける僕。


「これは自慢じゃなくて自嘲になるんだけど……日本人は他の文化を物真似するのみならず更に洗練させることに長けるんだ。小型化……多様化……実用化……などなど他国で発明された技術を盗んで洗練させる。褒められるべきか貶されるべきかはこの際わきに置いといて……ね」


「…………」


 何を言いたいかわかってないのだろう。


 フォトンは僕を見据える。


 深緑の瞳が僕を捉えて離さない。


「今回の魔術についても同じことが言えるかな」


 僕は結論に向けて言葉を紡ぐ。


「要するに視点の問題なんだ」


「視点の?」


「そ」


 再度頷く。


「フォトンにしろクランゼにしろ空間破却とは《自身を含めたその他が空間を転移する魔術》と認識している」


「当然でしょう」


「ところが違う」


 僕は否定した。


「僕にとって空間破却とは《空間と別の空間を橋渡しする魔術》に他ならない。要するに空間を渡るのが大前提として存在し、誰がどれだけ空間破却されるのかまでは考えに含んでいない」


 はふ、と吐息をついて言葉を紡ぐ。


「つまりさ……」


「つまり……?」


「やっぱり視点の問題なんだ。どういう風に能力を捉えるか。それだけの話なんだよ。魔術が想像創造……つまるところの確固たるイメージによって成り立つとなれば、イメージに依存するだけ魔術の幅は広がる」


「それにしても他のモノだけを転移させるなんて……」


「そういう先入観が曇ったレンズの如しって奴じゃないかな?」


 僕は苦笑する。


「その気になれば火薬を玉座に転送して爆殺することも可能なのですか?」


「忌憚なく言えばその通りだね」


「もはや空間破却では追いつかない魔術ですよ……ソレは……」


「とは言っても僕はクランゼの空間破却を真似て……その上で洗練させただけなんだけどね……」


「たとえそうであったとしても凄まじいですよ……」


 光栄なことに感嘆の吐息をフォトンはつく。


「新たな魔術の概念です。しかも誰にも真似できない」


 そこまで持ち上げることかなぁ?


 僕は憮然とする。


 悩んでもしょうがなくはあるんだけど。


「とまれ……」


 僕は都合よく口を動かす。


「今は僕の魔術の考察よりすべきことがあると思うんだ」


「…………」


 沈黙するフォトン。


 深緑の髪が風に揺れる。


 アンバーおよび取り巻きたちについて、だ。

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