日の本の国04
「お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」
開口一番の言葉にしては教師のソレは直球だった。
場所は生徒指導室。
朝のホームルームの時間である。
もっとも僕は生徒指導室にいるため今は関係ないが。
テーブルを挟んでソファが二つ。
対面するように置かれている。
テーブルの上にはコーヒーが。
その数は三つ。
一つは教師。
一つは僕。
そして一つはツナデである。
そしてそんなコーヒーの置かれたテーブルを挟んで僕とツナデは生徒指導の教師と対峙していた。
僕は言う、
「僕は絡まれただけです」
と。
「しかして相手は手を出していない」
スッと息を吸って、
「そうだろう?」
と確認する教師。
嫌味に聞こえるのは事実なのか。
それとも僕の心が腐っているのか。
ともあれ、
「因縁をつけたのは相手の方ですよ」
コーヒーを飲みながら僕は言った。
「しかし重ねて言うが相手は手を出していない」
それは……、
「事実ですが……」
肩をすくめてみせる僕。
するとそこに、
「埒の無い問答は止めましょう」
とツナデが割り込んだ。
それに怯んだのは生徒指導の教師。
名前は……忘れた。
というか覚えた試しも無い。
閑話休題。
「相手は暴力をふるったわけじゃない」
ツナデが追求する。
「そうだ」
教師は頷く。
「手を出したのはお兄様だと」
ツナデが更に追求する。
「そうだ」
教師は頷く。
僕はといえば、
「ほ」
とコーヒーを飲んで一息ついていた。
「マサムネ……」
と侮蔑の瞳を教師は僕に向ける。
「…………」
それだけでツナデは殺気を漲らせるのだった。
表情から感情を読むのは忍の十八番。
当然教師による僕の扱いについても筒抜けだ。
問題は、
「教師がそれに気づいていないってことだよねぇ……」
ということだ。
「何を言っている?」
困惑する教師に、
「地雷原でタップダンスを踊るあなたのうかつさを指摘しただけですよ」
限りなく婉曲に僕は状況を説明した。
「地雷原……? タップダンス……?」
「然りです」
そして僕はコーヒーを飲んで、
「ほ」
と吐息をつく。
「お兄様……」
これは当然ツナデ。
「なぁに?」
「ヤっていいですか」
「駄目」
僕は激情にかられるツナデを制止した。
「ともあれ、だ」
生徒指導の教師が話の筋を戻す。
「無抵抗の人間に暴力を働いたんだ。マサムネ……お前には多少なりとも処罰を受けてもらうぞ……」
侮蔑の瞳で僕を睨みつける生徒指導。
そしてツナデが、
「でしたらツナデも処罰を受けねばなりませんね」
あっさりと言った。
「は……?」
ポカンとする教師。
「最初に手を出したのツナデです。ならばお兄様と同様にツナデにも罰をお与えください」
決然とツナデは言うのだった。
「いや……それは……」
困惑する教師。
それはそうだろう。
加当の家を敵にまわしてまでツナデを処罰する理由が見当たらない。
アクションとリアクションが見事に釣り合っていないのだ。
加当の政治力なら教師一人を解任するなど指先一つで出来るのである。
「処罰は停学ですか? いいですよ。お兄様を停学にするというのなら当然ながらツナデも停学ですよね?」
「あ……う……」
生徒指導の教師は言葉を失うのだった。
そして何故か僕を睨む。
まぁ僕を貶めようとして失敗したのだから激情にかられるのもしょうがないことではあるのだけど。
ともあれ僕はコーヒーを飲んで一息つくのだった。