018 自販機
夜は目立たずに済む。
外出禁止令は出しているも、世相慣れするにはやっぱり実体験も必要だろう……ということで、
「アレなに?」
ウーニャーを連れて外に出ていた。
一応、髪は目立たないように。
「自販機」
夜中に光る物の一つだ。
「じはんき?」
「自動販売機。要するに自立した簡易の店舗……でいいのかな? 言葉通りに自動で販売清算するための機会だよ」
「コーラがあるよ?」
イナフのお気に入りだ。
彼女は炭酸がお気に召したらしい。
「使ってみる?」
「いいの? パパ?」
「お金については勉強したでしょ?」
「一円玉から五百円玉まで。千円札と五千円札と一万円札……だっけ?」
あと二千円札ね。
黒歴史ってこういうときに使う言葉じゃなかろうか。
「ほい。財布」
お金の入った財布を渡す。
「どうやって使うの?」
「そこも含めて考えてみよう」
「んー……」
睨みやるようなウーニャーの真剣度合い。
「えーと……円って書いてあるから、これが値段なのかな?」
向こうの世界では口頭契約だったしね。
「百四十円……百円玉と十円玉四つ……」
正解。
「あれ? 十円玉が少ない……」
あはは。
「パパ?」
「何でしょう?」
「買い物出来ないよ」
「出来るよ」
諭すように言う。
「でも……」
「向こうの世界で銅貨が無かったらどうしてた?」
「ウーニャー。銀貨を払って……銅貨のお釣りを貰って……ということは……なるほど過剰清算にはお釣りが来るのかな?」
ソレも正解。
「ウーニャー。じゃあ」
百五十円を投入する。
「んしょ」
ポチッとな。
ガタンと音がする。
「おお。コーラ」
ペットボトルのコーラが出てきた。
同時にお釣りもチャリンと一枚。
「ウーニャー?」
おつりのポケットを覗いて、十円玉を発見する。
「頭が良いんだね。この自動販売機」
「科学の勝利ですな」
「パパは何か飲まなくて良いの?」
「それじゃお茶でも」
硬貨を投入して、緑茶を買う。
「ウーニャー? お茶なら家で飲めるのでは?」
「まぁね」
その場合ツナデを煩わせることになるんだけど。
「ま、別に買っちゃダメって決まっているわけでもなし」
「ウーニャー。それはそうだけど」
「良い経験になったかな?」
「パパとお散歩すると楽しい」
可愛いヤツめ。
帽子越しに頭を撫でる。
「ウーニャー」
喜色満面の光悦を美貌に表わすウーニャー。
「喜んで貰えて何よりだよ」
「ウーニャー!」
ギュッと抱きついてくる。
「誤解されそうな絵面かな」
「ウーニャー?」
さすがに零歳児には手を出さないけども。
通報の危険性は考えないと。
もちろん遁術で見た目を変える事は出来るけど、オーラはカロリーを消費する。
単純に一時的な物なら良しと出来るだろうけど、いちいちオーラを展開するのも面倒では……さすがにあった。
「そこら辺が、ねぇ」
「ウーニャー?」
「何でも無いよ」
ウーニャーを解いて、手を繋ぐ。
「こっちでもお月様は変わらないね」
「なにぶん地球な物で」
「世界五分前仮説?」
「巫女はそう言ってたね」
ここではない異世界。
けれど実質は地球。
さて、となれば、こちらに神は居ないのか?
ちょっと考えた。
「まぁいいか」
「何が?」
「何でもないよ」
「ウーニャー!」
夜間故に、人目も少ない。
「コーラ冷たいね」
「冷やしてあるので」
「自販機の中で?」
「エントロピー的には推奨されないけどね」
「ウーニャー?」
「冷やす以上に熱を放出しちゃうのが熱力学ですので」
別に理解しなくても良いんだけど。
「ウーニャー。エントロピー?」
四方山話でそんなことも話したっけ。
ソワカ。




