017 ペペロンチーノ
「レシピはコレです」
ツナデがリリアに紙を渡した。
昼食はペペロンチーノだ。
キッチンの性能試験も兼ねて。
「基本的に簡単な方ですよ。キッチンの性能さえ掴めば難しい料理ではありません。教えたとおりに使って貰えれば、まぁミスも無いでしょう」
「コラ、ツナデ」
「何か?」
「プレッシャーをかけない」
「あう……」
リリアは臆病だ。
今では魔術も使えない。
何処にでも居る女の子。
しかも引っ込み思案と来る。
「やさしく手ほどき」
が肝要だ。
「けれどお兄様に美味しい料理を食べて欲しいですし。その上でリリアが挑戦するというのなら審判員は必要かと思いますけど……如何に?」
「マイルドなゆとり教育でお願い」
「政治的失策ですよ?」
「そこはまぁツッコまない方向で」
「が……頑張ります……」
パスタを湯がいて、ソースを炒める。
レシピがあれば相応に出来るらしい。
フライパンの扱いも堂に入った物だった。
何処で覚えたかなら、ツナデの指導だろう。
「やるじゃないですか」
ツナデも素直に賞賛した。
「リリアのペペロンチーノかぁ。美味しいんだろうね……。ツナデの奴とはまた違う感じ。ちょこっと其処は期待していたり」
「あう……」
「お兄様がプレッシャーかけてますよ?」
「あ」
こりゃ失敬。
「ウーニャー! 良い匂い」
ニンニクね。
僕の頭の上に乗っている幻想的小動物。
ぶっちゃけコレ一つで世界を敵に回せる。
「パスタは固めに湯がいて……ソースと絡めたところで……芯がなくなる様に……たしかアルデンテ……と……」
レシピを見ながらペペロンチーノを作っていく。
――中略。
「いただきます」
全員で食堂。
食事と相成る。
一口。
「おお」
「その……どうでしょう……?」
引っ込み思案なリリアの問答。
「超美味しい」
「本当……ですか……?」
「グッジョブ」
グッとサムズアップ。
「あは」
嬉しそうにリリアは綻んだ。
「本当に美味しいね」
イナフも感動していた。
「先日の……クエ鍋もそうでしたけど、なんだか美味しい物が自らの手に届きますね……。この文明は……」
フィリアもご満足。
「運送業者に乾杯だね」
僕は皮肉った。
「ふむ。初めてにしては良く出来ています」
ツナデも賞賛した。
「ありがとうございます……」
リリア。
照れ照れ。
ちょっと萌え。
「パスタですか……」
フォトンも思うところはあるらしい。
「コレは負けていられません」
ジャンヌは対抗心を燃やしているようで。
キッチンの案内はそれからも続いた。
僕は目の前のペペロンチーノを食す。
「うーん」
デリシャス。
「えへへ……」
嬉しい様だ。
リリアも結構簡便だ。
乙女の恋心の為せる業なのだろう。
「でも実際に美味しいよ? ニンニクの風味も飛んでないし、パスタの湯がき方も絶妙。向こうの世界にもパスタはあったけど、ソレと比較しても劣っていない」
「ですか……?」
「自信持って」
「はい……!」
いと美味し、ペペロンチーノ、作り手の、華やかなりし、料理の道を。
「お姉さんも負けてられない」
フィリアも火が点いたようだ。
「まぁ美味しい物が食べられるならソレで良いんだけど」
「パスタ程度なら失敗も難しいですし」
それはあるよね。
これが和食になると、塩加減にも繊細さが求められる。
「南無三」
はぐはぐ。
ペペロンチーノを食べ尽くす。
「美味しゅうございました。リリア殿」
「お粗末様でした……」
「いえいえ。貴重な料理をありがとうございます」
「然程では……」
「謙遜は時に嫌みになりますが?」
「えと……」
「素直に喜んで貰えれば良いのですけど」
「ではその様に……。また食べて……くださいますか……?」
「リリアの料理なら喜んで」
「あう……」
赤面する乙女の愛らしさよ。