016 衣嚢怪物を英語で
「しかし君は適応力が高いね」
僕はイナフに賞賛を送った。
衣嚢怪物をプレイしていた。
「面白いよ」
「だろうね」
面白くなければ、何故にとのことだ。
エンターテイメントは常に面白さを追求する。
僕は隣で見ていた。
キャラクターが縦横無尽に走って、敵とエンカウント。
この基礎を作りだした某RPGは偉いと思う。
「しかし文明の進歩甚だしいね」
一年こっちにいなかっただけで、新シリーズがスタートしている。
ホケーッとイナフのプレイするゲームを見やる。
「属性っていっぱい在るんだね」
「向こうの世界では七つしかなかったしね」
「しかも相互関係が」
それはたしかに。
ピコピコ。
「世界中でこんな娯楽が普及してるの?」
フィリアが困惑気味に聞いてきた。
「そうだね。衣嚢怪物はワールドワイドだよ」
「ふえー」
驚愕留まるところを知らず。
「七十億人だっけ? そんな数の人間が?」
「さすがにそこまでは」
どこにでも地獄は存在する。
「暇潰しとしては良いツールだよ。ぶっちゃけ子ども向けとしては悪くない。突き詰めると奥が深いから、結果論として大人もハマる。僕には適性がないけど…………イナフ程度の精神年齢なら、たしかにダダはまりして自然かもね」
別に誰に迷惑かけるでも無し。
財産も有るので働く必要も無い。
で、あれば、テレビゲームは娯楽教養として成立する。
ついでに社会勉強にもなる。
学校に行くだけが少年時代じゃないしね。
「くあ」
欠伸を一つ。
「眠いのかな?」
「少しね」
「お姉さんの胸で眠る?」
「遠慮しておこう。血を見る羽目になる」
「それもそうね」
……否定して欲しかった。
けどま、確かに事実だ。
「水は出せる?」
僕はコップを持ち上げた。
「ガラスを容器に使うって贅沢よね」
「こっちでは普通だけどね」
「水道じゃダメなの?」
「純粋な水が飲みたい」
「ソレでは」
トライデントが駆動する。
清水がコップに注がれた。
それを飲みながら衣嚢怪物を見やる。
正確にはその画面を。
速くも怪物を揃えているイナフだった。
「面白い?」
「超面白い」
「重畳重畳」
うんうん。
頷く僕でした。
「火属性が好きだよ」
「あー、はいはい」
言っている意味は何となく分かる。
「んで、こんなことしてていいの?」
「身体は鍛えてるでしょ?」
「それはそうだけど」
山が家の裏にある。
外出禁止令は出してるけど、裏山については話は別だ。
水を飲む。
「じゃあたまには訓練とか」
「自堕落に暮らしても問題は無いけどね。なんていうか。こっちの世界は穏当だから……正確には日本国が……と付け加えさせてもらうけど」
「怪物とか出てこないの?」
「そんな破天荒な話は知らないね」
居るかもしれないけど。
異世界があったのだ。
不条理がこの世界に無いとは言えない。
関係もないだろうけど。
実際にウーニャーとフィリアとジャンヌは物理現象を破綻せしめている。
それがどれだけの価値を持つのか。
今の僕は知らなかった。
「その怪物捕まえなくて良いの?」
「もう捕まえた」
さいでっか。
しばらくイナフとフィリアと一緒に、衣嚢怪物について語り合う。
「ここのジムは……」
とか、
「レアキャラの情報が……」
とか。
イナフが楽しんでくれるのが何よりだけどね。
「お兄ちゃん?」
「はいはい」
「ありがとね」
「何かしましたか?」
「衣嚢怪物……とっても楽しい」
「もっと面白いゲームもあるかもですよ?」
「そうなの?」
「ゲームソフトはいっぱい市場に出回っていますし」
コレは事実だ。
遊ぶにも、さりとて人の、限界よ。
「じゃ新しいゲームをネット通販で買うというのは」
「ねっとつうはん……」
フォトンもネグリジェ買ったしね。
中々生きやすい世の中でして。