014 月の冴える夜は
「君も大概だね」
「マサムネ様におかれましては迷惑だったでしょうか? たしかにご厚意に甘えていることは自覚もしておりますけども……えと……」
「冗談。けどわかんないな。本当に良かったの?」
「無限復元も解消されましたし」
「それはまぁあるよね」
ヤルダバオトはこの世界にはいない。
エヴェレット解釈だ。
「ところでそのネグリジェは?」
淫靡な雰囲気の寝間着でござんした。
「ネット通販で買いました」
いい加減、文明に目覚めているね。
「お金が勝手に支払いされている……というのは少し疑問ですけどね。銀行引き落としでしたっけ? なんでそんな高度な技術で金融を運営してるんですか?」
「ま、銀行がないと今の時分はやっていけないから」
信用創造については、まぁ今はまだ良いだろう。
「そんなわけでネグリジェを買ってみました。そそりますか?」
「超エロい」
率直な僕の感想。
「えへへ」
はにかむフォトン。
一丁前に嬉しい様だ。
「まぁ元から可愛くはあったんだけど……スーツが基本だったからね。可愛らしい衣装を着れば確かに魅力的にもなるか」
「抱きたいですか?」
「良いんだけど……ヒロイン同士で戦争になるよ?」
「あう」
御本人事情なだけによく分かる様で。
たしかにフォトンも別のヒロインが僕と寝たら、月の出る夜でも夜襲するはずだ。
「マサムネ様は綱渡りが上手ですね」
「単純に残酷なだけだと思うけど」
要するにキープしてるだけであって。
「でも皆マサムネ様が好き」
「然程の存在かね?」
「皆がマサムネ様に救いを求めてる」
「フォトンも?」
「私は救われた。既に無限復元はないし」
「じゃあ用済み?」
「むしろこれから」
「?」
「乙女心を分かってよぅ」
「?」
「これから返しても返しきれない恩を少しずつ返済する必要がある。きっとマサムネ様を幸せに出来るように……いっぱしの乙女にならないと」
「さほど感じ入ることかな」
「ごめん。格好つけた。本当はマサムネ様の傍に居たいだけ」
「ん。よかこと」
それは誓って本当だ。
「にしても挑発的だね」
「幾らでも抱いて良いんですよ」
「視姦するにとどめよう」
「あん」
「変な声出さないで」
「乙女の吐息です」
「何でも乙女って付ければ許されると思わないでね?」
「嫌いですか? 乙女……」
「好き嫌いの問題なの?」
「処女が好きとか。ビッチが好きとか。SMだったり妊婦趣味だったり」
「さすがにそこまでの勇者ではないかな?」
ぶっちゃけ引く。
そりゃ健全な元高校生なので、性行為に夢想はあれど、基本的に僕の目指す物は、純愛系の真っ当なものだ。
まずセックスが真っ当かと問われれば……どうなんだろう。
大人に成れば真っ当なんだろう。
けれど今の僕には手が届かない。
「君はソレでいいの?」
「マサムネ様の性癖に合わせます」
それもどうだかな。
言わないけども。
「月の冴える夜ですね」
「どちらかと云えば街灯だけどね」
「たしかに」
苦笑。
「こんなでは野盗も出ませんね」
「法治国家だからね。日本は」
「にほん」
「日の本の国」
ちょっと特殊な島国です。
「ツナデとはお風呂に入ったよね?」
「だねー」
「何かした?」
「キスとか?」
「私ともしましたよね」
「そうだね。求められた」
「その先は?」
「責任が取れない」
「ぶっちゃけハーレムでしょ?」
「業の深いことに」
「またそうやって悪者ぶる。マサムネ様は誠実さを誤魔化すときに良く道化を演じてみせます。殊更それが悪いとは申しませんけど……もうちょっと乙女を乱暴に扱ってもいいんですよ?」
野良犬に噛まれたと思って諦めぇや……ですか。
「フォトンは妾でも良いの?」
「マサムネ様が望むなら」
「んー。デリシャス」
「だ・か・ら……良い事しましょ?」
「却下」
「ん、もう。空気読んでください」
「空気を読む文化には浸ったわけだね」
「なんかそういうのが大事らしいですね」
「僕には縁の無い言葉だけど」
空気を読めるなら既に抱いている。
此処でじゃなくてあちら側で。
こうなると、ハーレムもけっこう大変だ。
乙女の一念は、この際本気で世界を滅ぼす。