012 クエ鍋
「こちらで火力を調節して」
「冷蔵冷凍が可能となりまして」
「解凍はこちらの電子レンジで……ですけど使うにもルールがあります」
ヒロインたちはシステムキッチンの使い方をツナデから学んでいた。
今日はクエ鍋。
何でだよ。
そう思っていると、業者に運良く譲って貰えたらしい。
本当に運が良い。
クエと言ったら高級魚だ。
市場でも見ることの少ない希少性は、在る意味で幻とも呼ばれる。
貰った方も貰った方だけど、譲った方も何考えてんだか。
貸し借りの問題は、この業界についてまわるけど、それにしてもなぁ。
「鍋文化について一定の考察をするのなら――」
クエ鍋~。
包丁の扱い方。
水道の理屈。
IHヒーターにスチームクッカー。
色々便利な世の中のことで。
ヒロインたちも、理屈は分からなくとも使い方には真摯に向き合っていた。
さすがに電子レンジに猫を入れることはしないだろう。
ピコピコ
「ウーニャー」
僕の頭の上でドラゴン形態のウーニャーが伸びをする。
こやつは多分電子レンジに入れても何も起こらないかな?
「外出は楽しかった?」
テレビを見ながらイナフ。
歌番組をやっている。
「ウーニャー!」
「歌を謳ったことはありますけど、こんなにたくさんは……」
「歌と娯楽は戦争の最中でも忘れられたことがないからね」
「歌……」
ホケーッと見やるイナフさん。
「魚の扱いですけど」
クエで料理の練習は……流石にしないらしい。
こっちとしても困る。
折角の高級魚で調理失敗となれば悔やむに悔やめない。
なので今回に限り、ツナデ手ずから。
「ダシの様子を見てください。こういうのは経験によるものなんですけど……まぁそれは後追いで」
鍋で煮詰まるしね。
「包丁の使い方は講義しませんよ。十分ですし」
それも御納得。
「鍋に入れる順番にも意味はありまして」
そんな感じで、キッチンの即席教習は過ぎていき――――、
「いただきます」
クエ鍋になった。
「ん。美味い」
ジンワリと染み入る幸せの味。
さすがはクエと言った様子。
濃厚な味わいは、偏に新鮮さの賜物。
「お、美味しいですね……」
「本当に……」
「ふおー」
「このレベルは……高いわね」
「ですです」
ヒロインさんたちも御機嫌だ。
調理者のツナデは「フフン」と自慢げ。
ウーニャーは僕の頭の上でまったりしていた。
「うまうま」
と食べるクエの味。
しばらく無言でクエを楽しむ僕ら。
結構シャレになっていない美味しさだ。
そりゃ口数も減る。
またツナデのとるダシともマッチして、互いに引き立て合っている。
最後は雑炊にして、全員食べ終わると、
「馳走でした!」
感激の感謝。
世にクエあることを感謝せざるを得ない。
ガチで美味かった。
「ウーニャー?」
一人分かってないロリっ子。
ウーニャーも何だかな。
「じゃあ食器の片付けを任せても?」
「さっさーい」
水道と洗剤の使い方は既に習っている。
ところでトライデントがあれば水道代って節約できるよね?
ていうか元が元だ。
「砂漠の緑化運動にも適してるなぁ」
食後の茶を飲む。
煎茶だ。
結構好みでして、妹にもバレている。
「クエ美味しかったね」
「偏に味の芸術でございました。やはり天然モノは、何かしら代替の利かないオンリーワン仕様になるのも納得の味で。まこと以て有り難く」
「えへへ」
「ウーニャー! そんなに美味しかったの?」
「幸せな気分に浸れるくらい」
「パパとのキスは?」
「それは比較重が後者に重すぎるかな?」
光栄に存じます。
「お兄様」
はいはい?
「一緒にお風呂に入りましょう?」
「言っておくけど水着着用は必須だからね」
「ええ。それはもう」
「お姉ちゃんズルい」
「クエ鍋を用意したのはツナデなので」
「ウーニャー? いいの?」
「ご褒美になるなら少しくらいは」
「いっそ抱いてくださってもいいんですよ?」
「責任取れないから嫌だ」
「取れますよ。学校は退学しましたので校則には左右されません。ついでツナデとお兄様は血が繋がっておりません。結婚も出来ますし、これ以上何をお求めで?」
「ソレを言われると辛いなぁ」
「マサムネ様は私のモノ!」
シャーと蛇舌を出すフォトンでした。
他のヒロインも似たもので。
「シェーンコップ中将の口調を借りれば、此奴がそれほど大物か……だね」
「お兄様……」
なんでございましょ?