011 市立図書館
煌びやかな窓ガラス。
古風を思わせる木造建築。
ついで、本独特の匂いが呼吸を楽にする。
僕とウーニャーは市立図書館に来ていた。
「ふわー」
カウンターで働く職員さん。
行き来する利用者。
全てが在る意味で異世界だ。
「じゃ、行くよ」
僕はウーニャーの手を引いた。
「ウーニャーにも何か読める?」
「識字が出来るなら大抵のものは」
「出来るよ!」
「それなんだよね」
ウーニャーに懐かれたわけだけど、なんかインプリンティングを超えて、ガチの父親扱いを務めさせていただいております。
南無。
「ドラゴンには何かあるのかな?」
巫女の設定だろうか?
生まれつき知性を宿し、哲学に更ける学徒。
異世界でのドラゴンはそんな存在だった。
「マキャベリでも読む?」
「面白い?」
「娯楽性はないかな?」
「面白い本が読みたい!」
「声を小さくお願いします」
「ウーニャー……」
そうそ、それで良し。
「とはいえこればかりはなぁ」
基本的に娯楽小説の多くは、現代文明への暗黙の理解を前提に綴られている。
スマホとかネットとか、学校だったり量子力学だったり宗教だったり。
多分ヒロインたちに言わせれば、
「知るか」
で一蹴されるだろう。
ライトノベルもその一環。
「となると……」
「ウーニャー?」
「絵本から始めなさい」
「えほん?」
「絵の付いた本。略して絵本」
「ウーニャー」
「てなわけで」
絵本を一つウーニャーに渡す。
結構有名な奴。
「静かにすること。本を楽しむこと。人を観察すること。これが図書館だから」
僕は歴史書を手に取った。
空いているソファにウーニャーと二人座る。
虹色が少し見えたけど……まぁ誤差の範囲か。
「…………っ…………っ」
印刷技術も大した物だ。
このネット文明に於いて、未だに印刷業者が息をしているのも、なにかしら本を求める人類の集合無意識が働いているのかも知れない。
ウーニャーがパタンと本を閉じる。
「面白いね」
感想はご満足の様で。
「こんな捻くれた話見たことないよ」
「あー、そっち……」
「でも短い。パパの本は面白い?」
「面白いけど、知識の所有を前提にした本だから、ウーニャーには分からないよ」
「ウーニャー……」
「はいはい」
代わりにシェイクスピアを渡した。
これなら文明の発展度も似たようなレベルだし、話としても捻くれているので、楽しめるはずだ。
「ウーニャー」
パラパラと捲った後、
「一日じゃ読めないよ」
「借りれば大丈夫」
「借りられるの?」
「図書館ですから」
「?」
ってなり申しますよね。
知ってる。
「住所と名前と電話番号を登録すると、借りることが出来るのよ」
「借りたフリして盗もうとしないの?」
「そこは良心に期待するや切ですな」
日本人って結構穏当。
これが島国だからなのか。
あるいは何かしらの因業なのか。
其処までは読めないけども。
「でもウーニャーには住所も電話番号もないよ?」
ですね。
「なので僕の名義で借りましょう」
「出来るの?」
「満遍ですな」
ピッと財布からカードを取り出す。
「ウーニャー?」
「バーコード認証なんて知らないでしょ?」
「知らない」
「じゃ、このカードと本を持ってカウンターの借りるコーナーへ行きましょうか」
「ウーニャー」
そんなわけでそんな感じ。
「ウーニャー。借りたいです」
「はいはい。承りました」
ピッと音が鳴る。
「おおう」
バーコード認証の音に感激した……のかな。
電子音自体には慣れているはずだけれど、それでも新しいシステムを見れば異世界観光としては刺激を受けるのだろう。
僕も久方ぶりなので、ちょっと懐かしい気分はある。
「シェイクスピア~」
「楽しいといいね?」
「うん。パパ」
はにかむように真竜王陛下の微笑みなさる。