010 人口密度
「本当に大丈夫なんですか?」
まぁそういうよね。
ツナデの懸念は実に正しい。
少しずつこちらの文明にも驚かなくなっている頃合いだけども……やはり中と外とでは必要とされる能力にも差異が在る。
「近場の市立図書館だから」
「はあ……」
不納得な御様子。
たしかに正当性を補強するフォローではなかった。
「ウーニャー陛下だけズルい」
フォトンは半眼。
気持ちは分かる。
どちらにせよ、一人ずつで、まずは慣れて貰うしかないんだけど、順番によっては不満もあるだろう。
気にしないけどね。
「ウーニャー」
ウーニャーは御機嫌だ。
ちっこい身体と、ちょっと差異の在る年齢。
そろそろ一歳の頃合いだけど、外見年齢は小学生相応。
さすがに虹色の髪は隠すしかないので、上着を羽織って、背中の髪を背面空間に突っ込む。
それから帽子をかぶり、隠せるだけ隠した。
「ツナデは仕事?」
「そうですね。一応落ち着くまでは……とは言いましたか」
「だね」
「大丈夫ですよ」
「心配はするけどね」
「ありがとうございますお兄様」
照れる。
「それじゃ他の皆はいつも通り社会勉強をすること」
「はーい」
ま、ゲームしたりネットしたりだ。
「スマホも買い与えないといけませんね」
「あー……スマホね……」
一応臨時的に僕とツナデは持ってるけども。
「そこら辺は任せるよ」
「承りました」
慇懃に一礼される。
「パパ。いこ!」
きゅっと手を掴まれる。
「はいはい」
僕もついでに屋敷外へ。
アスファルトで均された地面。
少し感動を覚える。
「道?」
「だね」
ウーニャーはペタペタと地面を触る。
「硬いね!」
「車が通ります故」
「車って……あのテレビで見た?」
「それ」
言ってる瞬間にも、ブオッとエンジン吹かせて風をまとって、一台の車が僕とウーニャーの側面を通り過ぎる。
さらに二台、三台。
「こんなにいっぱい走ってる!」
「ここはまだマシな方だよ」
田舎と都会の中間地点。
だいたい辺り一帯がうちの……正確には今はツナデの……土地なんだけど、山の側面に屋敷は建てられていた。
山間の訓練にもなるしね。
何処で使うんだって話でもあるけども。
しばらく歩くと、それなりの街並みが見えてくる。
「高い建物がいっぱいだね……」
ビルやマンションを興味深げに観察するウーニャー。
通り過ぎる人や自転車……車にも自家用車からバスまで。
電車もあるけど、今はまだ良いだろう。
「こんなに人がいるって事は、祭りか何かやるのかな?」
「普通の日常だよ」
「そなの?」
「人混みが凄いところは日常的にこれ以上を維持してる」
「ふおー。人がいっぱいなんだね」
「おかげで地球が迷惑してるんだけど」
いいんだけどさ、別に。
「でも平和」
「警察の皆様方の腐心によるものです」
国際的にはもうちょっと穏やかならざりし……だけども。
「ふーん。へー」
キョロキョロとウーニャーは街並みを眺めていた。
「皆スマホ使ってるね」
「歩きスマホね。マナー違反なんだけど」
「見ながら歩いて怖くないのかな」
「その想像すらも出来ないわけだ」
「ふぅん?」
わかられたような、わかられなかったような。
「で、図書館って書物を置く処なんだよね?」
「日本ではね」
地域一体型……とはとても呼べない。
「みんな其処に向かってるの?」
「いえいえ。利用者は限られてるよ」
活字の娯楽性は、少しメジャーからズレている。
「人気ないの?」
「そうなるんだろうか? いや、勉強や研究にも使えるから殊に無益ってワケでもないんだけど……」
僕はよく利用するけどね。
「パパは本が好きなんだね」
「反論の余地はありませんな」
あっはっは。
「にしても人も車もいっぱい……」
「渋滞を起こしていないだけマシだよ」
「ああ、あのいっぱい止まっている奴……?」
さいです。
コックリ頷く。
「あれって意味あるの?」
「ないね。時間の浪費に相違ない」
「じゃあなんで?」
「シビリアンの考えることが大体同一だからじゃない?」