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魔の国16

「ふおー。これが国際魔術学院……」


 僕は感心の吐息をついた。


 一つの街程度の広さを持つ……レンガ造りの建物や広いグラウンドのある趣のある俯瞰の光景だ。


 ちなみに……現在のところ僕がいるのは国際魔術学院でもっとも高い時計塔の屋根の上だった。


 リンゴーンと鳴る鐘の音を聞きながら広々としたクラシックな学園都市の風情を満喫する僕。


 本当に異世界なんだなぁと思わされる。


「でもさ、フォトン……」


 僕は僕と同じく時計塔の屋根にいるフォトンに声をかけた。


「何でしょう?」


 フォトンは僕の背中に抱きついた状態で僕に答えてくれる。


「学院ってわりには都市並に広すぎない? グラウンドもそこかしこにあるし……。なんでこんなに場所とってるの?」


「それはまぁ……安全のためですね」


「一応ここ王都なんだよね?」


「然りです」


 ただし、とフォトンは言う。


「正確には王都から歩いて半日の場所にあります。一応王都とはくくっていますが実質隔離されていますね」


「なにゆえ?」


「ですから安全のためです」


「安全の……」


「安全の」


「どゆことよ?」


「マジックキャパシティの大きな人間が大魔術に分類される攻性魔術を使っても王都に被害を出さないためですね」


「つまりフォトンみたいな人間が現れるかもしれないから隔離しようと?」


「そゆことです」


 ぬけぬけとフォトンは言った。


 僕は背中に抱きついてきているフォトンもなんのそので、広大な俯瞰の風景を眺めていると、


「あ、イジメが起きてる」


 広々としたグラウンドで、そんな一幕を見て取った。


 忍の技術の一つ、鷹の目だ。


 僕の視力は8・0。


 その瞳が今にもいたいけな少女に鞭を振るおうとする少年の姿を捉えた。


 同時に僕は想像創造をし、


「闇を以て命ず、空間破却」


 世界宣言をした。


 そして僕と僕の背中に抱きついているフォトンは空間を渡った。


 浮遊感。


 酩酊感。


 そして空間転移。


 次の瞬間、僕は少年と少女の間に割って入り少年の鞭による攻撃……害性行為を受け止めるのだった。


「……っ!」


 絶句したのは鞭を振るった少年と、その取り巻きと、害されようとした少女と、僕の背中に抱きついているフォトンが同時だった。


「マサムネ様……空間破却って……!」


 そんなフォトンを無視して、僕は僕に振るわれた鞭を掴みとると無刀取りの要領で奪い取った。


「イジメは格好悪いよ?」


 そんなテンプレートな僕の言葉に、


「無礼者!」


 と鞭の少年の取り巻きの……四人いる内の一人が僕に一喝した。


「こちらにおわすは魔の国の貴族にして宮廷魔術師候補にまで上り詰められたアンバー様にあらせられるぞ!」


 そして鞭の少年……アンバーがいけ高々に言った。


「そういうことだ。鞭を返せ。これから俺はリリアに仕置きをせねばならん」


 リリア……というのが少女の名前なのだろう。


 少女……リリアは身を丸めて塞ぎこむことで恐怖に対して抗っていた。


「この子が何をしたのさ?」


「俺の愛人にしてやろうと言ったのを断ったのだ。光栄にして栄光なことに背を向けたのだ。教育するのが筋だろう?」


「ああ、典型的な勘違い野郎だね……君は。権力を持つと人は腐敗するというけど、その典型例みたいなものだ」


「俺を馬鹿にするか!」


「せざるをえないでしょ。権力にかこつけて少女を慰み者にしようなんて馬鹿がついて然るべきだ」


「殺されたいらしいな……!」


 アンバーとその取り巻きたちは懐から小さな魔法の杖を取り出した。


 そしてその杖で僕を指す。


 同時に聞こえてきたのは世界宣言。


「我は木気を用いて高らかと宣言する! サンダーボルト!」


「聞け! 火のシステムよ! そをもって我は命ずる! ファイヤーボール!」


「遠大なる大地よ! 土よ! 我に答えよ! ストーンショット!」


「金気の力をもって我は世界に宣言する! ウィンドカッター!」


「全て足りえる水の気よ! その支配を我は奪う! ウォーターシュート!」


 そして電撃と火の弾と岩の弾と風の刃と水の弾が僕に襲い掛かり、しかして僕は傷一つつかなかった。


 当然だ。


 フォトンが僕を抱きしめている以上、僕は無限復元の影響下にいるのだから。


 今度は僕の番だ。


「木を以て命ず。サンダーボルト」


 先ほどのお返しだ。


 雷は木気の属性だ。


 故に電撃を浴びせたいなら属性指定は木にするべきである。


 とは言っても体の自由を奪う程度の電撃だけど。


 さらに世界宣言を続ける。


「金を以て命ず。ウィンドカッター」


 風は金気の属性だ。


 故に風の刃を生み出したいなら属性指定は金にすべきである。


 そして発生した風の刃はアンバーの取り巻きたちの首を切り裂くのだった。


 うーん。


 いまいち魔術は達成感が無い……。


 とまれ、


「ひぃ……!」


 とアンバーが怯えた。


 そんなアンバーに対して僕は一歩近づく。


 アンバーは狼狽えたように言った。


「貴様! こんなことをして我がアイタイラの家が黙っているとでも……!」


「黙っていなけりゃ敵対するまでだよ」


 権力の脅しなど僕には通じない


「くっ! 我は木気を用いて……!」


 と世界宣言をしようとしたアンバーの言葉と並行して、僕はオーラを広げ両手で印を素早く結ぶと、


「刃遁の術」


 アンバーの世界宣言より早く僕の術名が紡がれる。


 そして幻覚の刃によってアンバーの全身がズタズタに切り裂かれる。


 正確には切られたと誤認して要らぬ治癒作業を行ないその圧迫のしわ寄せによって脳に負荷を覚えるのだ。


「高ら……っ!」


 と世界宣言の途中で気絶するアンバー。


 そしてアンバーとその取り巻きたちは倒れたのだった。


 うん。


 本人とは独立した現象である魔術よりも、自身と相手とを認識して仕掛ける忍術の方が僕にはしっくりくる。


 頼ることになる魔術は空間破却くらいのものだろう。


 クランゼのお株を奪うようだけど瞬間移動は便利だ。


 ちなみにザワリ……とグラウンドで魔術の修練をしていた魔術師見習いの生徒たちがどよめく。


 まぁ無理もあるまい。


 基本属性……木火土金水の魔術を全て受けて無傷な僕が圧倒的な力を振るって高慢ちきな貴族を倒したのだから。


 それから僕は塞ぎこんでいる少女……リリアに声をかける。


「大丈夫?」


 リリアは利休鼠色の髪を持った美少女だった。


 どこかほんわかした小動物のような印象を受ける。


 その美少女リリアは塞ぎこんだ状況から、僕を見上げて、


「ふえ……。だいじょうぶ……」


 とたどたどしく言うのだった。


「そ。なら良かった」


 僕はニコリと笑う。


 それだけで、


「あ……う……」


 と言葉を見失うリリアだった。


 可愛い可愛い。

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