009 洗濯機
「えーと。洗いたい服をこっちに突っ込んで」
「ふむふむ」
「洗剤は此方に」
「はあ……」
「で、ボタンを押して、少し待てば洗えます」
洗濯機の講義が行なわれていた。
講師はツナデ。
聞いているのは、フォトンとリリア、それからフィリアとジャンヌ。
イナフはテレビゲームに夢中。
「自動で洗うので、放っておいて構いません。しばらく経つと、効果音で終わったことを報せてくれますから」
「なるほどー」
フォトンの言葉がヒロインたちの総意だった。
「それから干すのですけど」
「それはトライデントでどうにかならない?」
「出来ますね」
異論も無いらしい。
実際にトライデントの威力は半端ない。
お風呂と洗濯は、向こうでもお世話になっていた。
「異論は?」
「ないです」
「あう……」
「そうよね」
「……です」
納得する皆々様。
「じゃあ次からは任せます」
何せ下着の量が多い。
僕は別に良いんだけど、普通に女子の着替えは指数関数的に盛り上がる。
在る意味で、エクスクラメーションマークで増大するグラフにも似て……健全な男子としてはとてもとても抗える物ではない。
いやまぁ下着泥棒をするつもりもないけども。
「パパ」
虹色の髪の乙女が抱きついてきた。
「約束」
「だったね」
クシャリと頭を撫でる。
「約束?」
ヒロイン連中が耳ざとく問う。
あー……。
これダメな奴だ。
「何がでしょう」
阿修羅を背負う義妹。
「一緒にお出かけしようってだけだよ」
ハンズアップ。
ホールドアップ。
「外に出て良いのですか?」
フォトンが問う。
「洗濯機を使えたならね」
「マジで刻苦勉励します!」
「良か事良か事」
うんうん、と僕は頷く。
「ツナデはどうするの?」
「PSIAに顔を出す予定です」
「そか」
大変だね。
「収入もありますし」
「其処なんだよなぁ」
義妹が仕事で金稼ぐって何よ?
「何とはなればお兄様にも仕事は振りますよ」
「そうして」
食っちゃ寝は、あまり身体に良くない。
「お兄様のオーラは広いですから」
そんな問題かな?
「ウーニャーも広いよ?」
「けど感知は出来ないでしょう」
広すぎるからね。
南無八幡大菩薩。
「そこはまぁ慣れて貰うとして」
「ウーニャー……」
「とりあえずはまぁ、社会見学だね」
「ですね」
そこはツナデも同意見のようで。
「そうなると」
「そうなると?」
「食事事情が」
「ウーニャーは食事要らないから」
「お兄様は?」
「どうにでもなるよ」
ガクンヴヴン。
洗濯機が呻く。
「これはこれで……いいんですか……?」
リリアの問い。
「大丈夫です」
ツナデが頷く。
「後は干すだけですけど」
「それはトライデントでどうにでも」
フィリア万能論。
ぶっちゃけ世界を敵に回せるレベル。
どうしてそんな能力が。
まあポセイドンもチートっちゃチートだけども……普通にオリュンポスの神々って常軌を逸しているよね?
「じゃあ、それでいいかな?」
宜しいのではないでしょうか?
「お兄様はどう思います?」
「向こうの世界でも変わらなかったし」
「確かに」
洗濯や風呂はフィリアに頼んでいた。
「お姉さんなら何時でも相手してあげるわよ」
「それを人は自殺って言うんですよ?」
「あらら」
「南無三」
印を切る。
スッと膨れあがったツナデの殺意が消えた。
こちらもこちらでなんともはや。
ブラコン……ブラザーコンプレックスにしては、ツナデの愛情は比較対象が存在し得ないほど重すぎる……。
それが悪いこととは言わないけども。