007 夜も外は暗くない
僕はページを捲った。
読書だ。
しばらく此方の世界を離れていたので、読書だけでも大いに刺激になる。
今読んでいるのは京極夏彦。
しばらく読んでいると、
「パパ」
ウーニャーが入ってきた。
虹色の髪。
虹色の瞳。
パジャマ姿。
ちょっと危険な香りのする幼女なのですけど、こちらはあまりロリコンでもないので問題なし……と。
「外が明るいね」
たしかに。
向こうの世界には街灯がないので、明かりを常時展開する……という此方側の文明に馴染みがないのでしょうぞ。
ぶっちゃけ日本が異常極まる。
「これも電気の力?」
「そうなりますね」
便利な電気の力。
エネルギー産業は、なにより現代の文明に必要だ。
消費の激しい自転車操業。
「外に出てみたい」
「構わないけど変装くらいはして貰うよ?」
「ウーニャー……」
とかく虹色は目立つ。
ページをパラリ。
「パパは怖くないの?」
「何がよ?」
「暗くない夜」
「安心こそすれども」
「そっか」
「ウーニャーは怖いの?」
「ウーニャー。落ち着かない」
「そーゆー考え方もあるか」
ふむ、と思案。
結論なんて一つだけど。
「慣れるまでだよ」
「ウーニャー……」
ギュッとウーニャーが抱きついてくる。
「ウーニャーは甘えんぼさんだね」
「ウーニャー」
ムギュッ。
僕も抱きしめる。
「じゃあ今日も一緒に寝ましょうか」
「ウーニャー」
ドタドタ。
バン!
私室の扉が開かれた。
「マサムネ様!」
「何か? フォトン」
「一緒に寝ましょう」
「いいけど」
「おお、珍しい……」
たまには僕だってデレます。
「それは何を読んでいらっしゃるので?」
「物語」
「吟遊詩人のような?」
「似た様な物か」
確かにね。
「書物で娯楽を楽しむ……というのも無いとは言わないけど珍しいでしょ?」
「ですね」
製本技術はかなり進んでいる。
白紙の普遍性も、あるいは異世界組にははたに異常に映るだろう。
「こっちの世界では当たり前だけど」
「へー」
「魔術はこっちの世界にはない……少なくとも僕は知らないけど」
「けど?」
「魔術が出てくる娯楽小説はいっぱい存在するんだよ」
「魔術」
じっとフォトンは手の平を見た。
「遁術は?」
「ま、不条理の意味では同じだね」
あくまで人間知覚の延長線上だけど。
なんかこう人体影響とか在るのかな?
「ウーニャーとか」
「それだよね」
僕もそこが懸念だった。
こちらでも魔術を使える。
その可能性。
「ま、それは追々ってことで」
「ですね」
フォトンもいますぐ答えを求めることはしなかった。
「けどこんな方法で無限復元を無くすなんて……」
「一応願いは叶えたつもりだけど?」
「そうですよね。ありがとうございます」
「それはツナデに言ってあげて」
「あー……」
「恋敵?」
「ま、妾でもいいんですけど」
「そんな不誠実が許されるかな?」
袖からクナイを取り出す。
ヒュンと回した。
「いつも暗器を持ってるんですか?」
「癖みたいな物だよ。向こうの世界に持ち込めなかった暗器もあるし」
「銃とか?」
「確かにね」
ツナデは普通に使ってたけど。
ウーニャーは腕の中……可愛く円らな瞳でコッチを見つめていた。
「パパも使えるでしょ?」
「訓練は一通り受けたよ」
人を傷つける簡便性で銃に勝る者は無し。
「別に人間殺すのに銃は必要ないし」
それもまた事実だった。
南無。